分子細胞生物学

PubMedID 30842654
Title Gboxin is an oxidative phosphorylation inhibitor that targets glioblastoma.
Journal Nature 2019 03;567(7748):341-346.
Author Shi Y,Lim SK,Liang Q,Iyer SV,Wang HY,Wang Z,Xie X,Sun D,Chen YJ,Tabar V,Gutin P,Williams N,De Brabander JK,Parada LF
  • Gboxin is an oxidative phosphorylation inhibitor that targets glioblastoma
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 藤波 祐丞
  • 投稿日 2019/12/01

がん細胞が増殖するにはATPだけでなく核酸やアミノ酸、リン脂質などを必要とする。この事を代謝性要求という。酸化的リン酸化ではATPだけが過剰になり、NADPHや炭素骨格が足りなくなってしまうため、がん細胞は酸化的リン酸化よりも解糖系に依存する(Warburg効果)。しかし、がん幹細胞や原発性神経膠芽腫などのある種のがん細胞では酸化的リン酸化の代謝性要求への依存が大きいことが知られている。
 がん細胞特有の代謝性要求を標的としたがん特異的阻害剤は現在殆ど無い。本論文で報告された低分子Gboxinは、マウスとヒトの原発性神経膠芽腫細胞の増殖は特異的に阻害するが、マウスの胚性繊維芽細胞や新生仔のアストロサイトの増殖は阻害しない。
 Gboxinは、神経膠芽腫細胞の酸素消費を急速かつ不可逆的に抑制する。Gboxinはその正電荷を利用して、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン(H+)勾配(ΔpH)依存的にミトコンドリアマトリックスに入って蓄積し、ミトコンドリア酸化的リン酸化複合体Ⅴのサブユニットと結合する。従ってこのGboxin増殖抑制効果は高いΔpHを持つガン種特異性Gboxin抵抗性の細胞はミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)がΔpHを調節してミトコンドリアマトリックスへのGboxinの蓄積を妨げる。
また、代謝的に安定なGboxin類似体をマウスに投与すると、グリオブラストーマの同種移植片や患者由来異種移植片が抑制された。Gboxinの毒性は、さまざまな臓器を起源とするヒト由来のがん細胞株に対しても有効であり、がん細胞のミトコンドリアのプロトン勾配強化とpH上昇が、抗がん剤開発の標的となり得ることが明らかになった。

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  • 東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 分子発癌分野 藤波 祐丞 2019/12/01
  • Gboxin is an oxidative phosphorylation inhibitor that targets glioblastoma. 

がん細胞が増殖するにはATPだけでなく核酸やアミノ酸、リン脂質などを必要とする。この事を代謝性要求という。酸化的リン酸化ではATPだけが過剰になり、NADPHや炭素骨格が足りなくなってしまうため、がん細胞は酸化的リン酸化よりも解糖系に依存する(Warburg効果)。ところが、がん幹細胞や原発性神経膠芽腫などの増殖速度の遅いがん細胞では酸化的リン酸化の代謝性要求への依存が大きい事が報告されており、このがん細胞の代謝性要求における性質の違いは治療標的となりうると考えられていた。しかし、標的としたがん特異的阻害剤は現在殆ど無かった。
 原発性神経膠芽腫は中枢神経系に頻発する悪性腫瘍の中でも悪性度が高いが、このがんへの一般的な放射線療法や化学療法では通常細胞をも障害してしまう。本論文で報告された低分子Gboxinは、マウスとヒトの原発性神経膠芽腫細胞の増殖は特異的に阻害するが、マウスの胚性繊維芽細胞や新生仔のアストロサイトの通常細胞の増殖は阻害しない。
 Gboxinは、神経膠芽腫細胞の酸素消費を急速かつ不可逆的に抑制する。Gboxinはその正電荷を利用して、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン(H+)勾配(ΔpH)依存的にミトコンドリアマトリックスに入って蓄積し、ミトコンドリア酸化的リン酸化複合体Ⅴのサブユニットと結合する。Gboxin抵抗性の細胞はミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)がΔpHを調節してミトコンドリアマトリックスへのGboxinの蓄積を妨げる。しかし、mPTP阻害剤であるシクロスポリンAでMEFを処理すると、ミトコンドリア内膜のΔpHが上昇し、Gboxinを蓄積させ、増殖を抑制する。
 In vivoにおいては、代謝的に安定なGboxin類似体をマウスに投与すると、グリオブラストーマの同種移植片や患者由来異種移植片が抑制された。
 また、Gboxinの毒性は、さまざまな臓器を起源とするヒト由来のがん細胞株に対しても有効であり、がん細胞のミトコンドリア内膜のΔpHが、抗がん剤開発の標的となり得ることが明らかになった。

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  • 東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 分子発癌分野 藤波 祐丞 2019/12/01
  • Gboxin is an oxidative phosphorylation inhibitor that targets glioblastoma. 

 がん細胞が増殖するにはATPだけでなく核酸やアミノ酸、リン脂質などを必要とする。この事を代謝性要求という。酸化的リン酸化ではATPだけが過剰になり、NADPHや炭素骨格が足りなくなってしまうため、がん細胞は酸化的リン酸化よりも解糖系に依存する(Warburg効果)。ところが、がん幹細胞や原発性神経膠芽腫などの増殖速度の遅いがん細胞では酸化的リン酸化の代謝性要求への依存が大きい事が報告されている。このがん細胞の代謝性要求における性質の違いは治療標的となりうると考えられていた。しかし、この代謝性要求を標的としたがん特異的阻害剤は現在殆ど無い。
 原発性神経膠芽腫は中枢神経系に頻発する悪性腫瘍の中でも悪性度が高いがん種だが、増殖速度が遅いためこのがんへの一般的な放射線療法や化学療法では通常細胞をも障害しうる。本論文は、マウスとヒトの原発性神経膠芽腫細胞の増殖は特異的に阻害するが、マウスの胚性繊維芽細胞や新生仔のアストロサイトの通常細胞の増殖は阻害しない低分子Gboxinのメカニズムについての報告である。
 Gboxinは、神経膠芽腫細胞の酸素消費を急速かつ不可逆的に抑制する。Gboxinはその正電荷を利用して、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン勾配(ΔpH)依存的にミトコンドリアマトリックスに入って蓄積し、ミトコンドリア酸化的リン酸化複合体Ⅴのサブユニットと結合する。Gboxin抵抗性の細胞はミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)がΔpHを調節してミトコンドリアマトリックスへのGboxinの蓄積を妨げる。しかし、mPTP阻害剤であるシクロスポリンAでMEFを処理すると、ミトコンドリア内膜のΔpHが上昇し、Gboxinを蓄積させ、増殖を抑制する。
 In vivoにおいては、代謝的に安定なGboxin類似体をマウスに投与すると、グリオブラストーマの同種移植片や患者由来異種移植片が抑制された。
 また、Gboxinの毒性は、さまざまな臓器を起源とするヒト由来のがん細胞株に対しても有効であり、がん細胞のミトコンドリア内膜のΔpHが、抗がん剤開発の標的となり得ることが明らかになった。