文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)平成28年度~平成32年度
PubMedID | 30905761 |
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Title | KRAS-IRF2 Axis Drives Immune Suppression and Immune Therapy Resistance in Colorectal Cancer. |
Journal | Cancer cell 2019 Apr;35(4):559-572.e7. |
Author | Liao W,Overman MJ,Boutin AT,Shang X,Zhao D,Dey P,Li J,Wang G,Lan Z,Li J,Tang M,Jiang S,Ma X,Chen P,Katkhuda R,Korphaisarn K,Chakravarti D,Chang A,Spring DJ,Chang Q,Zhang J,Maru DM,Maeda DY,Zebala JA,Kopetz S,Wang YA,DePinho RA |
大腸がん(CRC)はガンによる主な死因であり、CRC患者の約20%が転移性と診断されている。さらに転移性CRCを伴う場合の5年生存率は現代の治療の進歩にも関わらず12〜14%ほどである。またKRasの発ガン性変異(多くがK12D)はAPCやTP53の不活性化とともにヒトCRCの特徴的な変異である。KRasの発がん性変異は35〜50%のCRCに生じており、転移や浸潤と相関している。KRas変異は上皮成長因子受容体阻害剤や下流のシグナルに対する標的療法への抵抗性に関与しているという報告があり、臨床的知見からもその生理学的機能の解明が重要視されている。
免疫チェックポイント阻害療法(ICB therapy)はメラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ミスマッチ修復欠損症などの進行がん患者に臨床的優位性を示しているものの、マイクロサテライト安定性(MSS)のCRCでは効果が無いことが知られている。CRCの多くがMSSであることから効果的な治療法の確立が急務となっている。
本研究では、先行研究において確立したヒトCRCのモデルマウスを用いてKRas変異細胞の腫瘍免疫への影響とメカニズムの解明を目指した。
その結果、KRasの発ガン性変異はインターフェロン調節因子2(IRF2)の転写抑制を通じてケモカインであるCXCL3が発現し、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)のがん細胞への走化を誘導することによってT細胞による免疫を抑制していることを見出した。そしてこの免疫抑制機構によってCRCに対するICBの抵抗性が生まれていることを示唆した。さらにこの機構を阻害剤とICBの併用によってCRCのICBへの感受性を亢進できることを明らかにし、CRCに対する新たな治療戦略としての可能性を見出した。
本論文はCRCの臨床的な課題であるICBへの耐性機構を明らかにし、新たな治療戦略を見出した点で興味深い内容であった。しかし、KRasがどのようにしてIRF2の発現を抑制しているかなどのより詳細な分子メカニズムの解明には至っていないことから、さらなる研究の余地があると考えられる。
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