文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)平成28年度~平成32年度
PubMedID | 30850595 |
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Title | Apoptotic tumor cell-derived microRNA-375 uses CD36 to alter the tumor-associated macrophage phenotype. |
Journal | Nature communications 2019 03;10(1):1135. |
Author | Frank AC,Ebersberger S,Fink AF,Lampe S,Weigert A,Schmid T,Ebersberger I,Syed SN,Brüne B |
がん細胞と免疫細胞の相互作用は免疫細胞の表現型の変化は誘引させ、とくにmiRNAはこれに重要な役割を示している。とくにTumor Associated Macrophage(TAM)において、miRNAががん細胞からどのように分泌され、受容細胞に取り込まれて表現型を変化させるのか、その詳細な分子機構はいまだ不明のままである。筆者らは今回の研究により、乳がん細胞が有意にmiR375の発現量が正常細胞と比較して高く、アポトーシスによってmiR375が放出されたことを明らかにした。miRome解析によりマクロファージ内でもmiR375が蓄積しており、さらにマクロファージのスカベンジャー受容体であるCD36を介して取り込まれることが明らかとなった。マウスのXenograftモデルとスフェロイドによる検証の結果、癌細胞由来のmiR375は、マクロファージ内でPXNとTNS3を標的とし、マクロファージの運動能と浸潤能を亢進させることが分かった。これらの結果から、癌細胞からTAMに輸送されるmiR375により、貪食細胞に浸潤が亢進し、腫瘍微小環境の形成に寄与することが明らかとなった。
筆者らは乳がんの微小環境において、TAMがどのように誘導されるのか、またそれに伴うTAMでの遺伝子発現の変化を明らかにするため、コントロールとして正常マクロファージと、乳がん細胞株MCF7と共培養させたTAMでそれぞれ次世代シーケンサーで発現したmiRNAを網羅的に解析した。実際にqRT-PCRでマクロファージを各刺激でmiR375の発現が上がるか検証した結果、共培養したマクロファージのみmiR375が増加する結果となった。さらに筆者らはマクロファージで増加したmiR375の分子メカニズムを検証した。転写抑制剤であるActDと処理したところ、コントロールとしてDMSOを処理した場合とmiRNAの増加量に変化はなかった。さらに、mRNAの半減期が短いPPARで同じく検証したところ、いずれも有意にactDにより発言が低下した。筆者らはさらにmiRNAの成熟にかかわるDICERをsiRNAでKDさせた結果、KDした状態でもmiR375が増加していた。次に、miR375がMCF7からマクロファージに伝搬されるメカニズムとして細胞骨格のリモデリングによる細胞接触の可能性を検証した。CytochalasinB、Nocodazole、Carbenoxoloneをマクロファージに処理し、同様に共培養を行ったがmiR375の蓄積量に変化はなかった。次に、エクソソームのような細胞外小胞による運搬の可能性を考え、マクロファージの細胞上清、MCF7の上清、STSでアポトーシスを誘導したMCF7の上清、そして培地そのものからmiR375の含有量をqRTPCRで検証したところ、生きたMCF7と比較してアポトーシスを誘導したMCF7では優位にmiR375の含有量が高かった。MCF7はカスパーゼ3が欠損しているため、カスパーゼ3の発現そのものがmiR375の発現に影響している可能性があるか確かめるため、MDAMB231でアポトーシス誘導あるなしでmiR375の含有量を検証したところ、いずれの細胞上清にも差がみられなかった。そこで筆者らはマクロファージをACM/VCMで30分処理した後、さらに新しい培地に交換して4時間または24時間空いた状態のmiR375の蓄積量を検証した。結果、コントロールのVCMと比較して、ACMを4時間または24時間処理した場合ではmiR375の蓄積がみられた。さらに筆者らは生体内でのがん細胞由来のmiR375の影響を確かめるべく、スフェロイドとマウスでも同様の検証を行っている。miR375とMFの浸潤が実際の生体内でも起こりうるか確認すべく、ヌードマウスの左右の皮下にMCF7とmiR375のdecoyを処理したMCFをそれぞれ皮下移植し、腫瘍の大きさが1.5cmになったか35日後に摘出し腫瘍の大きさを計測した。その結果、miR decoyを処理した場合は腫瘍の体積が減少していた。また、フローサイトメトリで腫瘍に浸潤した単球とマクロファージを単離しカウントしたところ、decoyを使用した場合浸潤した細胞数が減少していた。さらに、単離したマクロファージのmiR375の量とその標的遺伝子の発現量をそれぞれqRTPCRした結果、decoyを使用た場合にはin vitroの結果と同様にmiRNA量が減少しており、それにともない標的遺伝子の発現量も増加していた。筆者らはさらに、人がん細胞との互換性を確かめるため、マウスの乳がん細胞株であるE0075と、マウスの骨髄から単離したMFを共培養させた。実際に人とマウスではmiR375の配列が同一であること、またヒトのmiR375がマウスの標的遺伝子に結合することもすでに確かめたうえでの結果、マウスのマクロファージでも標的遺伝子の発現量が共培養した場合に減少していた。
これまで細胞外小胞がmiRNAの運搬に重要な役割を果たすといわれていたが、本論文で、LDLという新たな運搬機構が発見され、血液中を運搬するエクソソームなどの存在に疑問を投げかける研究結果となった。
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