分子細胞生物学

PubMedID 32029622
Title An AMPK-caspase-6 axis controls liver damage in nonalcoholic steatohepatitis.
Journal Science (New York, N.Y.) 2020 02;367(6478):652-660.
Author Zhao P,Sun X,Chaggan C,Liao Z,In Wong K,He F,Singh S,Loomba R,Karin M,Witztum JL,Saltiel AR
  • An AMPK-caspase-6 axis controls liver damage in nonalcoholic steatohepatitis.
  • Posted by 大阪市立大学大学院医学研究科分子病態学 清水 康平
  • 投稿日 2020/02/21

メタボリックシンドロームの肝臓での表現型と認識されている非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD)は、生活習慣の欧米化に伴い世界的に増加しており、中でも肝臓に炎症や繊維化が見られる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis : NASH)は、肝硬変や肝癌の主要な原因となっている。炎症などによる肝障害とその再生の慢性化が繊維化を誘導することから、肝細胞死を制御する分子機構の究明は、NASHの治療法確立に資する重要課題であると位置づけられている。
AMP–activated protein kinase(AMPK)は糖や脂質代謝などの調節を介して細胞内のエネルギー恒常性維持を担う主要因子として知られる。これまでに脂肪肝においてAMPKの活性が低下していること、また、薬理学的な再活性化により脂肪肝が改善されることが報告されている。しかし、NASHの病態形成過程におけるAMPKの役割は不明であった。本論文ではこの点について、NASHのマウスモデルや患者サンプルを用いた病態生理学的アプローチから明らかにしている。
著者らはまず、肝臓特異的にAMPKを欠失させたマウス(LAKO)とその対照群にNASHを誘導し、肝臓脂肪量のほか、NASHで観察される炎症や肝障害、繊維化レベルについて比較した。その結果、意外なことに肝臓脂肪量に有意な差は認められず、また炎症についても同様であった。一方、肝障害と繊維化については、LAKOマウスにおいて増悪が認められた。著者らは、肝障害の増悪がネクロプトーシスではなくアポトーシスの増大に由来することを見出し、アポトーシス関連カスパーゼに着目して解析を進めたところ、NASHを誘導させたLAKOマウスではCaspase-6の活性化が有意に亢進していることが判明した。この際、Caspase-6をノックダウンすることで、LAKOマウスの増悪した肝障害が対照群と同水準まで改善することが確認されている。さらに、NASH患者の肝組織病理解析から、Caspase-6の活性化レベルは肝繊維化に基づく重症度と相関することを見出している。著者らはこれらの発見をもとに、AMPKアゴニスト(A-769662)及びCaspase-6阻害剤(Z-VEID-FMK)が、NASH誘導モデルマウスで観察される肝障害や繊維化を改善することを示した。以上の結果は、AMPK−Caspase-6軸がNASHの病態形成過程で観察される肝細胞のアポトーシス制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。
続けて著者らは、AMPKによるCaspase-6の活性制御メカニズムについて解析を行っている。In silico及びin vitro解析から、Caspase-6のAMPKによる直接的なリン酸化がCaspase-6の活性化を顕著に抑制していることが明らかとなり、NASHを誘導したマウスの肝臓においてもAMPKの活性低下に伴うCaspase-6のリン酸化減弱と活性化が観察された。最後に著者らは、Caspase-6がカスパーゼカスケードのポジティブフィードバック制御に寄与することを示しており、NASH発症過程のようなAMPK活性が低下する病態生理学的条件下において、Caspase-6がアポトーシス誘導において重要な役割を担っている可能性について議論している。
これまでに多くの研究者によってエネルギー代謝領域を中心に解析されてきたAMPKが本研究の中心的役者であったが、本論文では、AMPKによるCaspase-6を介したアポトーシス制御という新たな機能が見出され、さらに、カスパーゼファミリーの中でも解析が遅れていたCaspase-6の病態生理学的役割が明らかとなった。また、NASHの肝障害を標的とした新規治療戦略を見出した点においても興味深い内容であった。

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