分子細胞生物学

PubMedID 31221965
Title Identification of metabolic vulnerabilities of receptor tyrosine kinases-driven cancer.
Journal Nature communications 2019 06;10(1):2701.
Author Jin N,Bi A,Lan X,Xu J,Wang X,Liu Y,Wang T,Tang S,Zeng H,Chen Z,Tan M,Ai J,Xie H,Zhang T,Liu D,Huang R,Song Y,Leung EL,Yao X,Ding J,Geng M,Lin SH,Huang M
  • Identification of metabolic vulnerabilities of receptor tyrosine kinases-driven cancer.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー 森 和樹
  • 投稿日 2020/04/03

この研究はがん細胞の代謝のネットワーク変化に着目している。ネットワークの変化が細胞の生存に対する脆弱性につながることは先行研究より知られている。今回筆者らは脆弱性の解明されていない受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の常時活性化異常のがん細胞を扱った。対象となったRTKは、EGFRとFGFRであり、既存のメタボロミクスのみの手法ではなくトランスクリプトームとの統合的手法によって解析されている。

まず筆者らはEGFR, FGFR, MET, RET変異遺伝子を導入した細胞で異なる代謝物が増加していることから、細胞増殖の過程での栄養獲得の様式の違いを推測した。そこで同位体で標識したグルコースとグルタミン酸のトレースを観察し、EGFRまたはFGFR活性型ではグルコースの代謝系が活性化し、特にEGFRではセリン合成が促進されていることがわかった。EGFRまたはFGFR活性型は細胞増殖においてグルコースへの依存性を示すこと、EGFR活性型のRNA-seqより解糖系とセリン合成系が過剰に促進されていることもわかった。

次にEGFR活性型がん細胞の脆弱性について調べた。EGFR野生型がん細胞と比較し、EGFR活性型がん細胞ではセリン合成経路(SSP)が活性化されることが判明し注目した。SSP関連酵素であるPHGDHに対する阻害剤は、EGFR活性化細胞の増殖を抑制した。SSP関連遺伝子の発現量をEGFR活性型がん細胞と野生型がん細胞で比較したところ、PSPH, SHMT1, SHMT2, MTHFD1が増加していることが判明した。しかし、EGFR阻害剤によって上記増加遺伝子の発現は抑制された。
SSPの活性化による細胞増殖への働きを調べるため安定同位体標識グルコースのトレースを調べたところ、SSPを経由しプリン塩基が産生されることが判明した。これらからEGFR活性型がん細胞はSSPが活性化されていることに脆弱性があると断定された。

さらにFGFR活性型がん細胞の脆弱性の発見を目指した。FGFR活性型がん細胞では解糖系へのグルコース供給の増加や細胞内外への乳酸の産生増加、酸素消費量の増加の3点が確認されていることから、乳酸がTCAサイクルに供給されていることを推測した。安定同位体標識乳酸のトレースからTCAサイクルに乳酸が利用されていることを確認した。次にFGFR活性化がん細胞と野生型がん細胞の遺伝子発現の比較からLDHA, PFKL, GLUT1, HK2の発現が増加していることを見つけた。そこでLDH阻害を行ったところ感受性があり細胞増殖が抑制された。
乳酸産生の活性化による細胞増殖への働きはTCAサイクルの促進により、酸化的リン酸化が活発になりATP産生につながることである。上記の結果からFGFR活性化がん細胞では乳酸産生に脆弱性があると示唆された。

最後に筆者らはSSPや乳酸産生に関わる転写因子のトランスクリプトーム解析を行ない、FGFR活性型細胞ではHIF1AとMYCの発現、EGFR活性型細胞ではATF4とMYCの発現が代謝系のリプログラミングに関与することを発見した。FGFR活性型ではMYCがより上流であり、EGFR活性型ではATF4が上流であることを実験的に導いたことから転写因子のMYCとATF4の存在がRTK常時発現変異がん細胞における代謝ネットワークのリプログラミングに重要であることを特定した。

この研究結果はRTK常時発現変異がんでの代謝系リプログラミングによって生じた脆弱性を標的とした治療の可能性を示した。また、患者ごとの脆弱性の解析が可能になることで同じ部位のがんであっても差別化し適切な薬剤を用いた治療に役立てることができると推測している。

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