分子細胞生物学

PubMedID 31792379
Title Phase separation of YAP reorganizes genome topology for long-term YAP target gene expression.
Journal Nature cell biology 2019 12;21(12):1578-1589.
Author Cai D,Feliciano D,Dong P,Flores E,Gruebele M,Porat-Shliom N,Sukenik S,Liu Z,Lippincott-Schwartz J
  • Phase separation of YAP reorganizes genome topology for long-term YAP target gene expression.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 森泉 寿士
  • 投稿日 2020/04/18

細胞内には、核小体、p-body、ストレス顆粒など様々な膜を持たないオルガネラが存在し、これら膜を持たないオルガネラは、タンパク質・RNAによる液ー液相分離(溶液が均質に混じり合わず二層に分離する現象)によって形成されている。2009年にp-bodyが液ー液相分離によって形成されているという発見を皮切りに、生物学的相分離の研究が急速に進み、相分離は現在もっとも注目されている分野の一つである。
液ー液相分離に取り込まれるタンパク質には、固有の立体構造をとらない長い領域を持つ特徴があるこたがわかっており(天然変性タンパク質)、またこの構造をもたない領域には、類似した配列が繰り返し現れる特徴も有している(low complexity domain:低複雑性ドメイン)。
細胞が低密度状態時にYAPは、核内に局在し、転写因子のTEADと結合して、TEAD自身の転写活性を亢進させることで細胞増殖を誘導する。一方で、高密度状態では、キナーゼのLATSが活性化し、YAPのSer127をリン酸化することで、YAPは14-3-3と結合し細胞質へ汲み出される。その結果、TEADの転写活性は低下し、細胞増殖が抑制される。
近年の報告で、高浸透圧ストレス下でYAPはLATSによってS127が、NLKによってS128がリン酸化されることが示された。そしてS128がリン酸化されたYAPは、14-3-3との結合が阻害され、核移行して細胞増殖を誘導することが明らかになった。

今回筆者らは、YAP分子内にlow complexity domainが存在することを見出し、高浸透圧ストレス時にYAPが顆粒に取り込まれることを示した。この顆粒は、液-液相分離の特徴(流動性、可逆的、融合、球状)を有しているが、P-bodyやストレス顆粒ではないことが分かった。
次に筆者らは、YAPが顆粒に取り込まれる意義に関して、細胞質顆粒および核顆粒それぞれ分けて解析を行った。細胞質内の顆粒では、YAP以外にLATSおよびNLKが取り込まれることが明らかになった。細胞質内の顆粒は、YAP(Ser127/Ser128)が効率的にリン酸化される場になっており結果、YAPの核移行を亢進させる働きがあると考えられる。
一方で、核内顆粒には、オープンクロマチン領域が集まっており、さらに転写因子のTEADおよびRNAポリメラーゼⅡが取り込まれることが明らかになった。また顆粒内では、RNAの合成が積極的に行われており、RNA合成の場になっていることが分かった。以上の結果から、核内顆粒は、効率よく転写を誘導する働きがあることが示唆された。

過去に、co-activatorであるBRD4やMED1が核内で顆粒に取り込まれることで、転写活性が高まる報告があるが、本論文では、細胞質内顆粒・核内顆粒の両方がYAP活性および転写活性を亢進する働きがあることを示しており、とても興味深い知見である。しかし、本論文では、高浸透圧ストレス刺激依存的に、YAPが顆粒に取り込まれるメカニズムは明らかになっておらず、さらに解析を進めることで、low complexity domainを有したYAPが、どのようにして液-液相分離によって形成された顆粒(今回取り込まれた顆粒とp-bodyやストレス顆粒)を識別しているか明らかにできると考える。

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