分子細胞生物学

PubMedID 26777690
Title Ligand Activation of ERRα by Cholesterol Mediates Statin and Bisphosphonate Effects.
Journal Cell metabolism 2016 Mar;23(3):479-91.
Author Wei W,Schwaid AG,Wang X,Wang X,Chen S,Chu Q,Saghatelian A,Wan Y
  • Ligand Activation of ERRα by Cholesterol Mediates Statin and Bisphosphonate Effects
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 鈴木美香子
  • 投稿日 2017/08/24

 核内受容体(NRs)は、スーパーファミリーをなす一群のたんぱく質であり、多細胞動物に存在する転写制御因子である。ヒトの核内受容体は、様々な生理作用に関与し、内分泌疾患、代謝疾患、がんなどの疾患に関与していることが知られており、中にはERRα(エストロゲン関連受容体α)を含め、リガンドが不明なOrphan receptorが存在する。ERRα(エストロゲン関連受容体α)は、がん、代謝、骨の恒常性などにおいて重要な役割を担っている。
これまでERRαの内因性リガンドは明らかになっていなかったが、ERRαの拮抗剤(ex:XCT790,SR16388)がERRαのリガンド結合ポケット(LBD)に結合することが明らかになったことから、筆者たちは、ERRαは内因性のリガンド持っているのではないかと予測し、今回このジャーナルでERRαのリガンド結合ドメイン(LBD)に結合するリガンドを模索するべく、マウスの脳から抽出した脂質を用いたアフィニティークロマトグラフィでコレステロールを同定し、転写アッセイでリガンドであることを同定した。
 筆者らは、ERRαの転写活性がコレステロールの生合成経路を仲介しているかどうか検証するために、ルシフェラーゼアッセイを行い、さらに高脂血症の治療薬として知られているHMG-CoA還元酵素阻害剤/スタチンでコレステロール生合成経路を阻害するとERRαの転写活性低下が見られた。この転写活性抑制はERRαの転写共役因子PGC1αが存在するときのみ抑制された。このことから、コレステロールはERRαと結合し、ERRαの共役因子であるPGC1αをリクルートすることが示唆された。
次に、高脂血症の治療薬として知られているHMG-CoA還元酵素阻害剤/スタチンは、1999年のscience誌に骨量増加作用があることが掲載されて以来、スタチンは有力な骨粗鬆症治療薬候補として挙げられている。スタチンには筋毒性という有害な副作用があり、筋幹細胞分化の抑制、筋委縮性遺伝子atrogin-1(Fbxo32)を誘発することで筋疾患を引き起こすことが報告されている。しかし、この筋疾患の治療法は解明されていない。そこで筆者らは、スタチンによる筋毒性がERRα依存的であるか調べるために、筋幹細胞分化実験を行った。スタチンにより筋幹細胞分化は阻害されたが、ここにコレステロールを添加すると細胞の分化がレスキューされた。さらにERRαの拮抗剤であるXCT790でERRαを阻害しても同様の結果が見られた。さらにERRαKOマウスの筋幹細胞分化実験においては、WTでは筋幹細胞マーカー・筋委縮性遺伝子の発現がスタチンにより減少したにも関わらず、ERRαKOマウスにおいては減少効果が見られなかった。これより、コレステロールによる制御は、ERRα依存的であることが示唆された。
 現在、骨粗鬆症の治療薬として、FPPS酵素(ファルネシル二リン酸シンターゼ)を阻害するビスホスホネートが使用されている。スタチンもビスホスホネートも、破骨細胞形成を抑制することが先行研究で明らかになってはいたが、作用機序は明らかになっていなかった。筆者らは、破骨細胞分化実験を行い、スタチン・ビスホスホネートの影響がERRα依存的であるか検証した。スタチン・窒素含有ビスホスホネートで破骨細胞を処理すると、破骨細胞の形成は抑制され、またERRα標的遺伝子・破骨細胞分化マーカーの発現がコントロールよりも抑制された。そこにコレステロールを添加すると、破骨細胞形成がレスキューされた。またERRαとPGC1βの相互作用を免疫沈降で観察した結果、スタチンにより相互作用は阻害され、コレステロール添加によりレスキューされた。これらのことから、コレステロールはERRαの作用薬として機能し、ERRα活性を仲介する主要なステロールであることが示唆された。
 さらに筆者らは、最近報告されたマクロファージにおけるコレステロールの抗炎症性作用がERRα依存的であるかどうか検証した。LPS刺激したケモカイン(Cxcl9,Cxcl10)は、コレステロールにより発現が抑制されたが、XCT790で処理したマクロファージにおいてはコレステロールによる抑制効果は消えた。このことからこのコレステロールによるケモカイン抑制効果は、ERRαが仲介しており、さらにこれはERRαの新しい抗炎症性作用であることが示唆された。
 最後に筆者らは、コレステロール降下薬であるスタチンやビスホスホネートは骨を保護する一方で、高コレステロール血症の人は骨の減少が見られることが先行研究で明らかになっていた。そこで、筆者らはERRαKOマウスを用いて、静脈注射でゾリドロネート処理したもの・高コレステロール摂取したマウスを観察したところ骨の減少が見られた。この現象は、XCT処理したマウスでは見られなかった。これらのvivoでの実験においてコレステロール降下薬の機能には、ERRαが必要であることが示唆された。
これらの実験において、コレステロールがERRαのLBDに結合し、共役因子(PGC1α・β)がリクルートされることでERRαが活性化されることが明らかになった。ERRαが活性化されることで、①破骨細胞形成・骨の再吸収の増加②マクロファージのサイトカイン産生の減少③筋幹細胞形成増加、筋毒性が抑制される。

コメント
 今までスタチン・ビスホスホネートの作用機序が明らかになっていませんでした。しかし今回この論文を通してERRαの内因性リガンドがコレステロールと明らかになったことで、ERRαがコレステロールを通して、スタチン・ビスホスホネートの作用を仲介していることが明らかになりました。この発見により、新たな骨粗鬆症治療薬開発につながればいいと思います。

返信(0) | 返信する