分子細胞生物学

PubMedID 31973890
Title p53 Activates the Long Noncoding RNA Pvt1b to Inhibit Myc and Suppress Tumorigenesis.
Journal Molecular cell 2020 02;77(4):761-774.e8.
Author Olivero CE,Martínez-Terroba E,Zimmer J,Liao C,Tesfaye E,Hooshdaran N,Schofield JA,Bendor J,Fang D,Simon MD,Zamudio JR,Dimitrova N
  • p53 Activates the Long Noncoding RNA Pvt1b to Inhibit Myc and Suppress Tumorigenesis.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 塩崎ゆかり
  • 投稿日 2020/04/27

 p53は代表的な癌抑制遺伝子の一つとして広く認知され、多くの癌細胞で変異や欠失が認められる。DNA損傷や発癌シグナルなどの細胞ストレスに応じて活性化したp53は、下流遺伝子の発現を転写レベルで制御し、細胞増殖抑制、細胞周期停止、アポトーシスなど多岐にわたる細胞応答を誘導して、癌抑制に寄与する。p53は癌遺伝子Mycの発現を低下させ、細胞増殖を抑制することが知られるが、その分子メカニズムの全容は明らかとされておらず、生体内での癌抑制効果も評価されていない。近年、タンパク質をコードしないlncRNA(long non-coding RNA;長鎖非コードRNA)が発癌を始めとする様々な重篤疾患に深く関与することが判明した。癌において発現変動するlncRNAは癌マーカーや治療標的として注目され始めている。lncRNAは200塩基以上かつ潜在的なORF(Open Reading Frame)が100アミノ酸残基以下のRNAを指し、その機能は、転写因子やクロマチン修飾酵素との相互作用を介した転写の制御、特定のmicroRNAと結合してmRNAへの結合を阻害する作用、複数のタンパク質分子間の足場及びキナーゼ活性を有する働きなどが挙げられる。lncRNAはcisに作用すると自身の転写領域近くの遺伝子の発現を、transでは異なる染色体上の遺伝子の発現を制御する。本論文では、Mycの50kb下流に発現するlncRNA、Pvt1の転写領域にp53 RE(response element)が含まれることに着目し、p53によるMyc発現抑制機構の解析を試みた。
 まずMEFやKPR(肺腺癌細胞)において、DoxorubicinやIR刺激に応答してp53依存的にMycのmRNA量、タンパク量が減少することを確認した。次にMyc promotor近傍のPvt1、中でもexon1b/2から転写開始するPvt1bがp53依存的に発現することを見出した。さらにASOを利用してPvt1b をknockdownすると、Doxorubicin添加時のMyc抑制が解除されることから、Pvt1bがMycの発現抑制に関与することを明らかにした。またその制御がtransではなくcisに行われることも判った。一方、CRISPR-SAMを用いたPvt1bの発現誘導においてMycの抑制は見受けられず、この原因として転写後調節を挙げている。p53RE特異的に変異を導入する手法を用いた結果、Pvt1bの抑制がMycの発現増加につながり、Mycの転写活性と細胞増殖能にも影響を与えることを示した。最後に肺癌マウスモデルを用いて、p53-Pvt1b-Myc経路が癌の進行ではなく増殖を抑制することを解明し、Pvt1bを介したMycの制御はp53癌抑制機構の初期段階に当たると結論付けた。
 筆者らは論文全体を通して、既に報告のあったPvt1が引き起こすクロマチン構造の再編成に対して、再現性が得られないことを記し、cisに作用する新しい分子機構の可能性を提示している。しかし、Pvt1bに依らないMycの転写後調節に際して、詳細なデータは提示されておらず、不明瞭のままであった。また、p53依存的に発現するPvt1bがMycの発現を抑制することは明らかだが、他の標的遺伝子の制御について言及がないため、腫瘍抑制がMycのみを介した効果なのか判らない。Pvt1bによるMycの抑制は部分的で、p53-Pvt1b-Myc経路全体での腫瘍抑制も局部的(p53-p21経路の存在)であることを考えると、マウスモデルで癌の進行を抑制できなかったように、Pvt1bに限局して重大な癌抑制効果をもたらすことは難しいかもしれない。今回はp53依存的に発現誘導されるlncRNAの一つとしてPvt1bを見出しその機能に着目したが、大半の癌でp53の機能が低下していることや、Pvt1b単独でもMycを抑制できることを踏まえ、今後機能解析が更に進み、Pvt1bが癌抑制lncRNA として治療応用に用いられることを期待しております。

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