分子細胞生物学

PubMedID 32610081
Title Ribosome Collisions Trigger General Stress Responses to Regulate Cell Fate.
Journal Cell 2020 Jul;182(2):404-416.e14.
Author Wu CC,Peterson A,Zinshteyn B,Regot S,Green R
  • Ribosome Collisions Trigger General Stress Responses to Regulate Cell Fate.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 塩崎 ゆかり
  • 投稿日 2020/10/12

 Ribotoxic stress responses (RSR)は主にリボソーム標的タンパク合成阻害剤によって引き起こされるSAPK経路の早期活性化を指す。この活性化はタンパク合成阻害作用より低濃度で誘発されることから、リボソーム障害に対するストレス応答反応であると考えられている。近年、inhibitorやsiRNAを用いた実験によって、MAP3Kの一つZAKがRSRに関与していることが明らかとなった。しかし、ZAKがどのようにribotoxic stressを検知し、SAPK経路の活性化を引き起こすのかは解明されていなかった。
 翻訳停止をもたらす主な機構としてmTORC1による4E-BPのリン酸化と、様々な細胞性ストレスを検知したeIF2αキナーゼによるeIF2αのリン酸化が挙げられる。後者はIntegrated stress response(ISR)と提唱され、ストレス顆粒形成などの生体防御機構を担う。現在4種類同定されているeIF2αキナーゼの中でも、GCN2はアミノ酸飢餓に陥った際にATF4の翻訳を促進する過程でeIF2αをリン酸化し、アミノ酸生合成酵素群を活性化することが知られている。また、GCN2の活性化はアミノ酸飢餓以外にも、UV照射やプロテオソーム阻害、リボソームの失速などよって生じることが判っている。
 mRNAの翻訳異常はリボソームの失速と衝突(ribosome collision)を引き起こすことが明らかとされているが、ribosome collisionに対する細胞応答については未だ解析が為されず、判然としないままであった。著者らは本論文を通して、ribosome collisionがRSR及びGCN2を介したISRの二経路を活性化すると主張した。さらにZAKαがribosome collisionのセンサーとして機能し、両経路の活性化の上流を担うことを明らかにした。
 まず著者らは、翻訳阻害剤anisomycin, emetineの濃度を振り分け、衝突するリボソームの最小単位disomeが生じる割合の高い中濃度において、RSRが引き起こされることを示した。また、CRISPR /Cas9法を用いてZAK-KO 細胞を作成し、各isoformやmutantをrescueしたところ、ZAKαのキナーゼ活性がRSRに必要であることを明らかにした。さらに、中濃度の翻訳阻害剤投与時に、ZAKαがGCN2を介してeIF2αをリン酸化すると延べた。しかし、ZAKαの下流でGCN2が活性化するのかに関しては不明確であるため、より詳細な解析が必要かもしれない。最後に、翻訳阻害剤投与と同様にグルタミン飢餓やUV照射においても、ribosome collisionが発生し、ZAKαを介したp38とeIF2αのリン酸化が引き起こされることを報告した。
 本論文は、ribosome collisionとRSR及びeIF2αのリン酸化の関係性を新規に提示した興味深い知見であるが、ribosome collisionの規格に応じて両経路の使い分けが為されているのかは不明瞭であった。また、ribosome collisionにZAKが結合することは証明しきれていないように見受けられたが、活性化したZAKαがリボソームから遊離する先行研究結果を踏まえると、実験手法に限界があるのかもしれない。著者らは論文全体を通して、RSRの特徴である早期(15-30min)のSAPK活性化のみにfocusしていた。しかし、細胞死にはp38 /JNKの長期持続的な活性化が必要であることが広く知られているため、細胞死との関連を明示するためには、翻訳阻害剤長期投与時のリボソーム衝突状態や他のMAP3Kも含めた分子機構の解明が必要であると感じた。

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