数理解析

PubMedID 33096023
Title Predicting Drug Response and Synergy Using a Deep Learning Model of Human Cancer Cells.
Journal Cancer cell 2020 Oct;():.
Author Kuenzi BM,Park J,Fong SH,Sanchez KS,Lee J,Kreisberg JF,Ma J,Ideker T
  • DrugCell: 細胞株やPDXの薬効を学習して臨床試験の薬効まで予測可能な深層学習モデル
  • Posted by 東邦大学 生理学講座細胞生理学分野 間木 重行
  • 投稿日 2020/11/10

背景
米国食品医薬品局の承認を得られる薬物は臨床試験が行われた化合物のうち4%未満であるが、その主な原因として、前臨床段階では予期できなかった人体における薬物反応が考えられる。深層学習を用いた薬効予測に関する研究が近年盛んに行われているが、多くのモデルが解釈性の低さ(ブラックボックス性)を課題として抱えている。筆者らは、出芽酵母をシミュレートするvisible neural network(VNN)をベースとして、細胞株やPatient-Derived Xenograft (PDX)の薬効データから薬物効果を予測する深層学習モデルDrugCellを開発した。

モデルの入出力関係
入力:細胞の情報(入力1)と薬物の情報(入力2)
予測出力:薬物を細胞に投与した際のる用量反応曲線のAUC(0-1の間で標準化)。

----やや詳しい詳細------
入力1:細胞の特徴ベクトル、3,008遺伝子の変異状態(バイナリ)
中間モジュール1:GO Biological Processの階層構造をもとにした2068のサブシステムから構成されるネットワーク(VNN)
中間出力1:VNNによって遺伝子の変異ステータスから6次元に縮約された特徴ベクトル

入力2:薬剤の特徴ベクトル、2048次元のMorgan Fingerprint(部分構造ベクトル、バイナリ)
中間モジュール2:ノードが100, 50, 6の3層の隠れ層を持つ、古典的な(全結合?)artificial neural network (ANN)
中間出力2:6次元に縮約された特徴ベクトル

入力3:中間出力1と2をあわせた12次元ベクトル
最下層モデル:6ニューロンの隠れ層→出力層
最下層出力:薬効のAUC(1次元)
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特徴
中間モジュールでGOのグラフ構造を採用していることから、ある薬剤の効果においてどのサブシステムが相対的に重要かを計算することが出来る。(出力層に近い)親サブシステムは複数の子サブシステムのニューロンから情報を受け取る。各モジュールのニューロンの重み(とバイアスも?)を特徴量として薬物応答を予測する線形回帰モデルを構築し、得られる予測値と実測値の相関係数を親サブシステムと子サブシステム計算する。親サブシステムの相関係数が子サブシステムよりも高い場合、(子サブシステムから非線形なパタンを学習した)重要なモジュールであることを示す。これを利用して、薬物の相乗効果も計算することが出来る。

結果概略
5-fold cross validationでモデルの精度を確認した結果、モデルによる予測値と実際の値のスピアマン相関係数は0.80であった。このスコアは、薬物予測に用いられたstate-of-the-artのモデルと比べても遜色ない精度であった。細胞非特異的に阻害する化合物の方が予測精度が高い傾向にあったが、MEK阻害薬の予測値の相関が高くなるなど、薬物のクラスエフェクトの予測も可能であることが分かった。
サブシステムの重要度計算の結果同定された薬剤と重要モジュールの関係性(trametinibとLabyrinthine developmentなど)のいくつかは、Crisprによるノックアウト実験により実験的に検証された。また、薬物の相乗効果の予測(PI3KとMEK)が出来た他、PDXモデルのデータを学習することで併用化学療法に対する感受性や転移性ER陽性乳がん患者のCDK4/6阻害薬およびmTOR阻害薬に対する薬剤感受性の予測が可能であった。

まとめ・感想
本モデルによって遺伝子変異情報から事前に薬効予測が可能になれば、薬効が期待される患者の層別化が進むことが期待される。GOの階層構造を利用したニューラルネットワークにより、精度を保ちつつモデルの解釈性を上げるという試みが非常に興味深い。遺伝子側のNNに比べて化合物側のNNの方が単純な構造になっているように思える。
分子反応ベースのモデルに取り組む研究者からは「ディープラーニングはブラックボックス!」と考えられがちで私自身もその一人であったが、本モデルは予測にとどまらない解釈性を持っているように思えた。pre-trainedモデルはgithub上で公開されているので触ってみたい。

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