分子細胞生物学

PubMedID 32641828
Title Envelope protein ubiquitination drives entry and pathogenesis of Zika virus.
Journal Nature 2020 09;585(7825):414-419.
Author Giraldo MI,Xia H,Aguilera-Aguirre L,Hage A,van Tol S,Shan C,Xie X,Sturdevant GL,Robertson SJ,McNally KL,Meade-White K,Azar SR,Rossi SL,Maury W,Woodson M,Ramage H,Johnson JR,Krogan NJ,Morais MC,Best SM,Shi PY,Rajsbaum R
  • Envelope protein ubiquitination drives entry and pathogenesis of Zika virus
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 幹細胞分子医学分野 藤波 祐丞
  • 投稿日 2020/11/12

ジカウイルスはフラビウイルスに属し、蚊を媒介して人へ感染する事で新生児小頭症を引き起こす事が知られる、臨床的に重要なウイルスである。認可された有効なワクチンや治療薬は現在無い。

フラビウイルスの細胞への感染は、ウイルス膜上のエンベロープ糖タンパク質(Eタンパク質)と、TIM-1、AXLなどの宿主細胞膜上の受容体分子との直接ないしは間接的な結合により開始される。細胞膜に吸着したウイルス粒子はクラスリン依存性エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれ、エンドソーム内のpH低下によりEタンパク質が膜融合活性を有する立体構造へと変化し、エンドソーム膜とウイルス膜の融合を引き起こす。その後、ヌクレオカプシドが細胞質へ入り、中のウイルスRNAゲノムは細胞質に放出され、複製される。
ウイルスゲノムはER膜上で翻訳された後、ゴルジ体を経由して細胞膜へ輸送され、細胞外へ放出される。このサイクルを繰り返す事で宿主体内でウイルス粒子は数を増やす。

これまでにプロテアソーム阻害剤がフラビウイルス複製段階を阻害する事が知られている。しかし、現在報告されている、ユビキチン化がフラビウイルスの感染に寄与する知見は僅かな数に留まる。

今回の筆者らの報告では、分子生物学的、免疫化学的手法によって、ジカウイルスEタンパク質の38番目、281番目のリジン残基(K38、K281)へのK63結合型ユビキチン化がウイルス粒子の宿主細胞への複製段階を促進する事でin vitro、in vivoにおいて感染を促進する機序が示された。

また、ジカウイルスと同じフラビウイルスである黄熱病ウイルスの感染を促進する事が知られるE3リガーゼTRIM7は、in vitro、in vivoにおいて、ジカウイルスEタンパク質K38、K281のK63結合型ユビキチン化を促進し、感染を促進する事が示された。また、脳や胎盤などの組織においてTRIM7が組織向性を担っている可能性が示された。

一方で、哺乳類においてはin vitroにおいて、Eタンパク質K38のK63結合型ユビキチン化はウイルスの細胞への吸着を促進する事により膜融合を促進する事が示された。またin vivoにおいては抗K63結合型ユビキチン化抗体特異的にウイルス感染が抑制される事が示された。この抑制は蚊においては見られなかった。

また、Eタンパク質K38へのK63結合型ユビキチン鎖は、フラビウイルスの宿主細胞受容体として知られるTIM-1と直接結合する事が示された。in vitroにおいて、ジカウイルスEタンパク質K38はTIM-1による感染を促進せず、in vitroにおいても脳以外の多くの組織においてはTIM-1の感染への寄与は見られなかった事から、TIM-1とK63結合型ユビキチン鎖の相互作用は特定の組織に限局して感染に寄与していると考えられる。

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