分子細胞生物学

PubMedID 32559497
Title Altered RNA Splicing by Mutant p53 Activates Oncogenic RAS Signaling in Pancreatic Cancer.
Journal Cancer cell 2020 Aug;38(2):198-211.e8.
Author Escobar-Hoyos LF,Penson A,Kannan R,Cho H,Pan CH,Singh RK,Apken LH,Hobbs GA,Luo R,Lecomte N,Babu S,Pan FC,Alonso-Curbelo D,Morris JP,Askan G,Grbovic-Huezo O,Ogrodowski P,Bermeo J,Saglimbeni J,Cruz CD,Ho YJ,Lawrence SA,Melchor JP,Goda GA,Bai K,Pastore A,Hogg SJ,Raghavan S,Bailey P,Chang DK,Biankin A,Shroyer KR,Wolpin BM,Aguirre AJ,Ventura A,Taylor B,Der CJ,Dominguez D,Kümmel D,Oeckinghaus A,Lowe SW,Bradley RK,Abdel-Wahab O,Leach SD
  • Altered RNA Splicing by Mutant p53 Activates Oncogenic RAS Signaling in Pancreatic Cancer.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 鮫島 史帆
  • 投稿日 2020/11/15

 膵管腺癌(PDAC)は、致死率の高い難治性の膵癌の一種である。PDACの9割以上でKRASのホットスポット変異が存在することが知られているが、その変異を標的とした治療法はかなり少ない。KRASに次いでPDACで変異が見られる遺伝子にTP53がある。TP53のホットスポットミスセンス変異は、TP53の腫瘍抑制機能の喪失だけでなく、がんにとって有利な新たな機能を獲得すること(=gain of function)が知られている。PDACのサブタイプで最も予後の悪いものは、KRASとTP53の共存変異に加え、RNAスプライシングに関連した遺伝子の高発現によって進行する。しかし、これらの変異がどのようにしてこの癌を促進するのかは不明である。本論文では、KRASの活性を高めるミスセンス変異p53によって誘導されるRNAスプライシングの変化を明らかにし、そのメカニズムの癌治療への応用が検討されている。
 まず、スプライシングにおいてp53の変異によってエクソンの使われ方が変化し、変異があると使われるエクソンにはシトシンが多く含まれることを見出した。また、Gene ontology解析の結果から、シトシンが多く含まれるエクソン(polyCエクソン)には、GAPをコードするトランスクリプトがエンリッチし、特にpolyCを含むGAP17の発現がヒト・マウス間で最も保存されたものであることが分かった。
 次に、変異型p53をノックダウンするとpolyCをもつGAP17の発現が低下したことから、変異型p53によってpolyC GAP17の発現が誘導されることが示唆された。この結果を受け、著者らはp53の変異によってpolyC GAPの発現が上昇すると、GAPの活性が低下し、低分子GTPaseの活性型(GTP-RAS)が上昇するという仮説を立てた。これを確かめるため、p53変異体をノックダウンすると、活性型の低分子GTPaseの存在量およびその下流タンパク質の活性化レベルの減少が見られた。しかし、リコンビナントタンパク質を用いたアッセイ系で、polyCエクソンの組込みがGTPase活性に直接影響を与えるのではなく、polyCがコードするSH3ドメインにより細胞内での局在化やタンパク質-タンパク質相互作用を変化させる可能性が示され、変異型 p53 は、GAP17を膜関連 RAS 低分子 GTPase から遠ざけるエクソンの組み込みを促進することで、発がん性シグナルを最大化することが示唆された。
 そして、変異型p53がスプライシングを変化させる機構について調べると、hnRNPKの発現を調節することにより、変異型p53がGAP17のスプライシングの変化とKRASG12D活性の強化を媒介することが示唆された。
 最後に、変異型p53によって誘導させるGAP17のmRNAのスプライシング変化は、変異型p53のPDACの進行や転移を促進することが示唆され、変異型p53に関連するpolyC GAP17アイソフォームを阻害することが、PDACにおけるGAP17のGAP活性を回復させ、腫瘍増殖を減少させると結論付けた。
 これらの結果より、p53のミスセンス変異は、PDACにおいてGAPをコードするmRNAのスプライシングを変化させ、KRASを活性化させること、RNAスプライシングにおけるp53の変異の影響は、RNA結合タンパク質hnRNPKを介して与えられることから、変異型p53、hnRNPK、polyC GAPアイソフォームは変異型KRASのGTP結合レベルを維持し、その下流のシグナルを活性化することで腫瘍の成長を促進させるということが明らかとなった。著者はこのメカニズムを用いて、p53変異を有する膵臓癌において、GAPのスプライシングを調節することは、治療に応用できる可能性を有すると考えている。今後の課題として、変異型p53によって発現が促進された+polyC GAPがコードするSH3ドメインの生化学的な役割の解明や、本論文では注目されなかった変異型p53によって取り込みが抑制されるエクソンに関する研究が望まれる。

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