分子細胞生物学 | 構造生物学

PubMedID 32246052
Title Molecular bases for HOIPINs-mediated inhibition of LUBAC and innate immune responses.
Journal Communications biology 2020 Apr;3(1):163.
Author Oikawa D,Sato Y,Ohtake F,Komakura K,Hanada K,Sugawara K,Terawaki S,Mizukami Y,Phuong HT,Iio K,Obika S,Fukushi M,Irie T,Tsuruta D,Sakamoto S,Tanaka K,Saeki Y,Fukai S,Tokunaga F
  • Molecular bases for HOIPINs-mediated inhibition of LUBAC and innate immune responses.
  • Posted by 大阪市立大学大学院医学研究科分子病態学 及川大輔
  • 投稿日 2020/11/24

ユビキチンのN末端を介した特殊な連結様式により形成される「直鎖状ユビキチン鎖」は、NF-kBなどの炎症シグナルや細胞死を制御するユニークかつ希少なユビキチンコードとして、近年、大きな注目を集めている。これまでに、直鎖状ユビキチン鎖を生成する唯一のユビキチンリガーゼとして、HOIL-1L、HOIP、SHARPINからなるLUBAC(linear ubiquitin chain assembly complex)複合体が同定されている。LUBACは、NF-kBシグナル経路の中心的酵素であるIkBキナーゼ(IKK)を制御するNEMOに直鎖状ユビキチン鎖を付加することで、古典的NF-kB 経路の活性化を導き、炎症・免疫制御に関わる遺伝子の発現を調節する。また、その制御不全が皮膚炎やB細胞リンパ腫など、様々な疾患と関連することも知られている。
新規創薬ターゲットとしての可能性を背景に、我々は以前、LUBAC活性を阻害する新規化合物の探索を進め、HOIPIN-1(SLAS Discov. 2018)や、より強力な阻害剤であるHOIPIN-8を同定していた(BBRC. 2019)。しかしながら、これらがどのような分子機序によりLUBACの活性を抑制するのか、さらに、細胞内においてどのようなシグナル経路を制御し、具体的にどのような疾患に対して病態抑制効果を示すのかは不明であった。

本論文において我々は、HOIPIN-1及びHOIPIN-8がLUBACの活性中心であるHOIPサブユニットのCys885にマイケル反応により選択的に結合し、ユビキチン転移反応(RING-HECT-ハイブリッド反応)を抑制することを、結晶構造解析などから明確にした。HOIPINsは良好な膜透過性を持つ一方で、細胞毒性は非常に低く、既報のLUBAC阻害剤と比較しても最も毒性が低かった。
また、HOIPINsが、炎症性サイトカインのみならず、LPSやpoly I:Cなど各種病原体関連分子パターン(PAMPs)で惹起されるNF-kB活性化やインターフェロン産生経路の活性化を、LUBAC依存的に抑制することを見出した。その際、HOIPINsはこれらの刺激による直鎖状ユビキチン鎖の産生のみを特異的に阻害し、K63型を含む他種のユビキチン鎖の動態には影響を与えなかった。加えて、HOIPINsがTNF-aによって誘導される外因性アポトーシスを特に強く増強することも明らかにした。
さらに、創薬シーズとしての検討も行い、HOIPINsが予後不良型の悪性リンパ腫でNF-kBの過剰活性化の関与が知られる活性化B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)に対して強力にアポトーシスを惹起させ、増殖を抑制することを見出した。また、炎症性皮膚疾患である乾癬のマウスモデル(イミキモド添加モデル)において表皮の肥厚を有意に抑制し、病変組織における各種炎症性サイトカイン(IL-17、22、23)の誘導を抑制することも明らかにした。

今後は、今回検討する事が出来なかった他疾患に対する影響も精査したい。まだ可能性の段階ではあるが、神経変性疾患で認められるタンパク質凝集体形成に対する、直鎖状ユビキチン鎖の新たな寄与も報告されている(EMBO J. 2019)。我々のグループでも、複数の神経変性疾患において直鎖状ユビキチン鎖陽性の凝集体を見出しており(Nat Commun. 2016; Neurosci Lett. 2019; J Neuropathol Exp Neurol. 2020)、今後、その生理的意義の解明に向けて、HOIPINsを利用したアプローチも展開していきたい。

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