分子細胞生物学

PubMedID 32302571
Title G3BP1 Is a Tunable Switch that Triggers Phase Separation to Assemble Stress Granules.
Journal Cell 2020 04;181(2):325-345.e28.
Author Yang P,Mathieu C,Kolaitis RM,Zhang P,Messing J,Yurtsever U,Yang Z,Wu J,Li Y,Pan Q,Yu J,Martin EW,Mittag T,Kim HJ,Taylor JP
  • G3BP1 Is a Tunable Switch that Triggers Phase Separation to Assemble Stress Granules.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 松田 碧
  • 投稿日 2020/12/07

生体内の細胞は熱や酸化ストレス、ウイルス感染など様々な環境ストレスにさらされている。これらのストレス刺激に対して細胞質内ではmRNAやRNA結合タンパク質が集まりストレス顆粒(以下SGとする)が形成され、異常なタンパク質の合成および蓄積を防ぎ、さらなる損傷から細胞を守っている。SGはリボ核タンパク質(RNP)顆粒の1つで液-液相分離(以下LLPSとする)を基にした動的で可逆的な細胞質構造体であるが、形成や維持に関する具体的なメカニズムは不明である。本論文で著者らはSGの形成や制御に関わる分子を多数同定し、それらの分子間の相互作用を解析することで36のタンパク質からなるコアSGネットワークを作成した。このネットワークの中心に位置するタンパク質はG3BP1/2であり、SGマーカーとして広く知られている。先行研究と同様に、G3BP1/2ダブルノックアウト細胞ではヒ素刺激によるSG形成は起こらない。著者らはこのG3BPの構造に着目し、生物物理学的原理に基づいたLLPSを引き起こすメカニズムおよびSG形成機構のモデルを提唱した。
まず著者らはG3BP1のドメイン構造に着目した。G3BP1はN末端に二量化を引き起こすNTF2Lドメイン、中央に天然変性領域のIDR1およびIDR2、C末端にRNA結合ドメインのIDR3、RRMを保持している。各ドメインを欠損させたG3BP1の、RNAとのLLPSをin vitroで解析したところ、驚くべきことにG3BP1ΔIDR1/2のみLLPSを引き起こした。さらにG3BP1ΔIDR1/2をG3BP1/2ダブルノックアウト細胞に発現させたところ、ヒ素刺激によるSG形成を引き起こした。これは天然変性領域がLLPSに重要であるというこれまでの見解とは異なる結果であった。よって著者らはIDR1とIDR2についてSG形成における役割を詳しく解析することにした。
G3BP1のIDR1は負に帯電しており、IDR2はわずかに正に帯電している。IDR1のみを欠損させたG3BP1は正常なG3BP1に比べてストレスに対してより早くSGを形成し、IDR2のみを欠損している場合はSG形成を引き起こさなかった。これらの結果から著者らは負に帯電したIDR1がSG形成に対して自己抑制機能をもち、IDR2がIDR1の抑制機能を緩和していることを示唆した。さらにIDR1の負電荷を増加させると正に帯電するIDR3との相互作用が強まることを発見した。よってIDR1とIDR3の分子内相互作用と、IDR3とRNAの分子間相互作用が競合し、IDR1のリン酸化により負電荷が増加すると、IDR1とIDR3の相互作用が増加しSG形成抑制が高まると考えた。
さらに著者らはIDR1とIDR3の相互作用がG3BP1のコンフォメーションにどのような影響を与えるか解析を行った。塩濃度が高い時にはIDR1とIDR3の相互作用が弱まり、G3BP1がオープンな構造をとることがわかった。G3BP1は開いた構造と閉じた構造で平衡状態となっており、IDR1とIDR3の相互作用が弱まり開いた構造をとっていると、IDR3にRNAが結合しやすくLLSPをひきおこしてSG形成に寄与するというモデルを提唱した。今後、このG3BPのコンフォメーションの変化とストレスとの関係を解析することでG3BP1のSG形成の分子メカニズムを詳細に解明できると期待する。

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