分子細胞生物学

PubMedID 33002410
Title Phase Separation of Disease-Associated SHP2 Mutants Underlies MAPK Hyperactivation.
Journal Cell 2020 Oct;183(2):490-502.e18.
Author Zhu G,Xie J,Kong W,Xie J,Li Y,Du L,Zheng Q,Sun L,Guan M,Li H,Zhu T,He H,Liu Z,Xia X,Kan C,Tao Y,Shen HC,Li D,Wang S,Yu Y,Yu ZH,Zhang ZY,Liu C,Zhu J
  • MAPK過剰活性化の影に潜む、 SHP2病態関連変異体の相分離の発見
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 齊藤 まりこ
  • 投稿日 2021/01/18

[概要]
 非受容体タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)であるSHP2(遺伝子:PTPN11)は、正常な発達におけるRAS-MAPKシグナル伝達に重要な役割を果たす。これまでPTPN11の突然変異について、gain-of-function (GOF)型、loss-of-function(LOF)型の両方が、同様の症状を示すヒトの発達障害をもたらす※ ことが報告されているが、そのメカニズムは不明である。本論文は、GOF型 / LOF型に関わらず、これらSHP2病態関連変異体が液-液相分離(LLPS)を起こしていることを報告している。
 SHP2病態関連変異体ではその立体配座(コンホメーション)が野生型に比べて自己阻害コンホメーション(クローズ)よりも、活性コンホメーション(オープン)を取りやすくなっていることを著者らは指摘した。このコンホメーション変化には、PTPドメインにおける多価の静電相互作用が関わっている。また、コンホメーションをクローズで固定できるSHP2アロステリック阻害剤を用いた実験では、SHP2変異体によるLLPSが起こりにくくなった。
加えて、SHP2病態関連変異体は、LLPS駆動時に野生型SHP2をも動員して活性化する。その結果、たとえ自身がLOF型のSHP2病態関連変異体であっても、細胞内でMAPK活性シグナルを亢進させ得る。これらの結果は、SHP2関連ヒト疾患の病態メカニズムにおいてLLPSが機能していることや、本知見に基づく新たな治療標的として、SHP2のPTPドメインを提唱するものである。
(※例えばRASopathy の中では、Noonan症候群(NS)患者の50%、NSと一部症状が重複するNS-ML症候群(Noonan syndrome with multiple lentigines. 別名LEOPARD症候群)の90%にPTPN11変異が見られるが、NSはGOF型、NS-MLではLOF型の変異が報告されている。)

[著者らの発見]
(1) SHP2はLLPSを起こす典型的なタンパク質ではない(low-complexicity domainや、repetitive multivalent modular domainsを持たない)が、病態関連変異によりLLPS駆動能を獲得する。
(2) SHP2病態関連変異体によるLLPSには、PTPドメインを介した静電相互作用が関与すると考えられる。
(3)アロステリック阻害剤の添加によりSHP2のコンホメーションを固定すると、SHP2病態関連変異体によるLLPSは抑制可能である。
(4) SHP2病態関連変異体は、溶液/細胞中に野生型との共存下でLLPSを起こすと、自身のLLPS condensate(濃縮物)に野生型までリクルート(取り込み)する。その結果、MAPKシグナル活性(ERK経路?)を亢進させると考えられる。

[コメント]
・特に、著者らの発見 (4) の経緯は鮮やかである。著者らは、実際のLEOPARD患者はSHP2変異をヘテロで持つことに着目し、論文後半では in vitro / 細胞内の両方において、SHP2のLEOPARD変異型と野生型が共存する実験系を構築し、証明した。
・残された議論の余地として、例えば、in vitroで観察した総PTP活性の上昇が、一見細胞内でも同様に起こっているように見えるけれども、たまたま結果が矛盾しなかっただけで、実際の細胞内では他の分子が間に絡んでいる可能性などが挙げられる。

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