分子細胞生物学 | 数理解析

PubMedID 30917326
Title Contribution of RNA Degradation to Intrinsic and Extrinsic Noise in Gene Expression.
Journal Cell reports 2019 03;26(13):3752-3761.e5.
Author Baudrimont A,Jaquet V,Wallerich S,Voegeli S,Becskei A
  • RNA分解における外因性および内因性ゆらぎの影響
  • Posted by 東邦大学 医学部 生理学講座細胞生理学分野 間木 重行
  • 投稿日 2021/02/04

背景:遺伝的に同一の細胞集団が同一環境で生育している場合においても、それぞれの細胞における分子の個数や動態にばらつき・不均一性が生じる。この現象は、薬剤耐性の表現型獲得だけでなく、細胞集団が外部の信号を処理する情報量という観点からも重要な意味を持つ。細胞集団内の不均一性は、同一プロモータで制御される2種類の蛍光分子の分散を測定した過去の研究を一端とし(Elowitz et al., 2002, Science)、外因性ノイズと内因性ノイズの2種類に分けて考えられてきた。外因性ノイズは分子反応に関わる化学種の量や反応係数などの細胞集団内におけるばらつきを指し、内因性ノイズは分子反応の過程自体が持つ確率的な揺らぎ、すなわちたとえ反応過程の全パラメタを固定したとしても生じ得るばらつきを指す。細胞内の平均分子数が少ない方が確率的な影響が出やすく内因性ノイズの影響が出やすい。そのため、内因性ノイズに着目した研究の多くは、クロマチンの特定領域における修飾や転写因子の結合を伴う転写反応を対象としている。そこで著者らは、RNAの分解反応におけるノイズ成分の解析を行った。

実験方法:GAL1プロモータ上で異なる遺伝子配列が制御される仕組みを対立遺伝子として持つ酵母を利用して、single-molecule RNA FISHによりRNAの分子数の変化をスナップショットで測定した。実験に応じてガラクトース除去やTet-on等による転写反応への実験的介入および、RNAに未成熟終止コドンを配列に組み込むことでナンセンス変異依存mRNA分解機構依存的分解を誘導し、RNAの平均寿命への介入を行った。

モデル:RNA合成と分解の揺らぎを持つ二状態プロモーターモデルの確率的シミュレーションを行い、定常状態のヒストグラムを実験値にフィッティングした。

結果:RNAの分子数が少ないほどノイズが増加した。内因性ノイズはポアソン分布に従い、外因性ノイズは分子数が減衰する過程でピークを迎えた。寿命の短いRNAの方がノイズの影響を強く受けることが予想されたが、実際は、寿命短RNAの方が外因性ノイズが小さくなるという予想外の結果となった。この傾向は、ナンセンス変異依存mRNA分解や短寿命RNAの分解を支配するエキソヌクレアーゼXrn1をノックアウトした株では見られなくなった。Xrn1の発現の変動係数が、0.15程度と小さいことを考えると、短命寿命のRNAにおける分解反応のノイズは、Xrn1の安定的な発現によって軽減されている可能性が示唆された。

まとめ:ノイズの影響を受けやすい短寿命RNAは発現量が安定している酵素によって分解される一方で、影響を受けづらい長寿命RNAは発現量がばらついている酵素による支配を受ける。すなわち、RNA分解反応におけるノイズのレベルをRNAの寿命によらず一定の範囲に抑えるメカニズムの存在が明らかになった。

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