分子細胞生物学

PubMedID 32857953
Title Multivalent Proteins Rapidly and Reversibly Phase-Separate upon Osmotic Cell Volume Change.
Journal Molecular cell 2020 09;79(6):978-990.e5.
Author Jalihal AP,Pitchiaya S,Xiao L,Bawa P,Jiang X,Bedi K,Parolia A,Cieslik M,Ljungman M,Chinnaiyan AM,Walter NG
  • Multivalent Proteins Rapidly and Reversibly Phase-Separate upon Osmotic Cell Volume Change.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 大塚 龍平
  • 投稿日 2021/02/18

 ストレス顆粒とP-bodyは共に膜を持たない構造体 (Mebraneless Organelles : MLOs) であり、主にmRNAとmRNA結合タンパク質により構成されている。P-bodyは構成因子としてmRNAの分解に関与する分子を多く含み、ストレス顆粒は翻訳開始に関与する因子を多く含んでいる。また、P-bodyは無刺激条件下でも細胞内に存在するが、ストレス顆粒は細胞にストレス刺激が加わると形成されるという特徴がある。In vitroでの解析により、MLOsを形成する分子の特徴としてLow Complexity Domain (LCD)などが報告されているが、細胞内では分子クラウディングという現象が起こっており、試験管内と細胞内では環境が大きく異なっているため、MLOsの構成因子については未だ不明な点が多い。今回筆者らはP-bodyのマーカーとして用いられ、RNAデキャッピング複合体の構成因子として知られるDCP1Aが浸透圧刺激によって顆粒を形成することを見出し、さらに浸透圧刺激において顆粒を形成する分子の特徴について解析を行なった。

 まず筆者たちは、P-bodyのマーカーであるDCP1Aまたはストレス顆粒のマーカーであるG3BPについて、U2OS細胞に浸透圧刺激またはヒ素刺激を加えることで顆粒形成が起こるかを蛍光免疫染色により検証した。DCP1Aは浸透圧刺激後2分で顆粒の数が顕著に上昇し、その個数は刺激後60分間でも変化しなかった。ヒ素刺激においてはDCP1Aの顆粒は僅かに増加したものの、大きな変化は確認されなかった。G3BP1については、浸透圧刺激及びヒ素刺激共に、刺激後2分では顆粒を形成せず、刺激後60分において顆粒を形成した。さらに筆者たちは浸透圧刺激またはヒ素刺激を加えた後で無刺激状態に戻した際に、DCP1AまたはG3BPの顆粒数に変化があるか実験を行った。その結果、浸透圧刺激により形成された顆粒は刺激時間によらず無刺激状態に戻してから2分後に刺激前の状態まで減少した。浸透圧刺激により形成されたG3BPの顆粒についても無刺激状態に戻してから2分後で現象が見られたが、刺激前の状態まで減少するには60分を要した。また、ヒ素刺激により形成されたG3BPの顆粒は無刺激状態に戻してから60分経過しても消失しなかった。この結果より、浸透圧刺激により形成されるDCP1A顆粒はストレス顆粒とは異なる性質を持つことがわかった。

次に筆者たちはさらに詳細な解析を行うために、GFP-DCP1Aを安定発現させたU2OS細胞株を樹立した。本細胞株を用いることで、DCP1Aの顆粒形成は浸透圧刺激の強度上昇に従って促進され、反対にDCP1Aの流動性は低下していくことがわかった。生体内の様々な反応にはマグネシウムイオン及びカルシウムイオンが重要であるため、DCP1Aの顆粒形成がこれらのイオン濃度変化によるものではないかと考え検証を行った。しかしDCP1Aの顆粒はこれらのイオンが生理条件の100倍の濃度まで上昇しないと形成されず、そのような条件下では浸透圧も大幅に上昇するため、DCP1Aの顆粒形成がこれらのイオン濃度によるものではないと筆者たちは結論づけた。また、ナトリウムイオンの濃度変化がDCP1Aの顆粒形成に寄与している可能性を考慮し、ソルビトールによる浸透圧刺激を加えたが、ナトリウムイオン濃度を上昇させた際と同様の傾向が見られたため、DCP1Aの顆粒形成は浸透圧によるものであると筆者たちは考えた。浸透圧刺激時には細胞の体積が大幅に減少するため、そこでこの体積減少が浸透圧刺激におけるDCP1Aの顆粒形成に影響すると考え検証を行ったところ、浸透圧上昇に従って細胞体積は減少し、等張状態に戻すと細胞体積は回復した。この傾向がDCP1Aの顆粒形成と一致していたため、筆者たちは浸透圧刺激におけるDCP1Aの顆粒形成は細胞体積変化の影響であると結論づけている。加えて生体内では浸透圧が劇的に変化していることを踏まえ、筆者たちは高浸透圧刺激と等張状態を繰り返す実験を行った。その結果、細胞の生存率には大きな変化は見られず、浸透圧の変化に応答してDCP1Aの顆粒が形成されることがわかった。

 DCP1Aの顆粒形成に必要なドメインを検証すべくsiRNA及び蛍光タグを付加したDCP1Aの断片を用いた実験を行ったところ、DCP1A内に存在する三量体化ドメインが重要であることがわかった。これを受けて筆者たちは浸透圧刺激において顆粒を形成する分子の特徴を明らかにすべく、ハイスループット蛍光免疫染色及び蛍光タグを付加した分子を用いて検証を行った。その結果、結合価が2以上 (=三量体以上の複合体を形成する) の分子が浸透圧刺激においては顆粒を形成する傾向にあることがわかった。解析の中で見出された分子の中で、筆者らはCPSF6に着目した。CPSF6はmRNAのポリA付加反応に関与する因子であり、転写の終結に重要である。そこで新生mRNAを解析する手法であるBru-Seqに加え、ChIP-Seqを行った。その結果、浸透圧刺激時には転写終結点よりも下流まで転写の起こっているmRNAが増加していることがわかった。また、CPSF6と転写終結点との結合も浸透圧刺激により減弱していることがわかった。そのため筆者たちは、浸透圧刺激によりCPSF6が顆粒を形成することで隔離されて転写終結点から離れ、転写終結点以下まで転写が起こるというモデルを提唱している。

 本研究により、浸透圧刺激においては、2価以上の結合価を持つ分子が浸透圧による体積変化依存的に顆粒を形成することが明らかとなった。浸透圧刺激により顆粒形成を起こす分子について、in vivoにおいてその一般的な特徴を明らかにしたという点で、本研究は大きな意義がある。しかしCPSF6が隔離されることで通常よりも長いmRNAが転写されるというモデルはとても興味深いものの、その現象が浸透圧刺激条件下において生理的にどのような意味合いを持つのかについて、更なる解析が望まれる。加えて今回ハイスループット蛍光免疫染色により浸透圧刺激において顆粒を形成することが判明した他の分子についても、その顆粒形成にどのような意義があるのか、今後の研究の発展に期待したい。

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