分子細胞生物学

PubMedID 28506461
Title MK2 Phosphorylates RIPK1 to Prevent TNF-Induced Cell Death.
Journal Molecular cell 2017 Jun;66(5):698-710.e5.
Author Jaco I,Annibaldi A,Lalaoui N,Wilson R,Tenev T,Laurien L,Kim C,Jamal K,Wicky John S,Liccardi G,Chau D,Murphy JM,Brumatti G,Feltham R,Pasparakis M,Silke J,Meier P
  • MK2 Phosphorylates RIPK1 to Prevent TNF-Induced Cell Death
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 小森 満美子
  • 投稿日 2017/09/20

 癌に伴う多くの炎症性疾患は、異常なサイトカインによって誘発される細胞死が原因で引き起こされたり、悪化したりすることがわかっている。しかし、このプロセスを制御する分子の動態については未だ不明な点が多い。このプロセスを解明することで、新たな治療ターゲットの発見や、抗炎症剤や抗癌剤の開発が促進されることが期待されている。
 TNFαはサイトカインの産生や細胞死を引き起こす炎症性サイトカインである。TNFαは炎症や細胞増殖、細胞死を制御することで恒常性を維持している(Walczak, 2011)。しかし、その受容体であるTNFR1への慢性的な結合によって、炎症性疾患が引き起こされることが知られている。
 TNFαを制御するメカニズムは複数存在しており、これらのメカニズムは、TNFαの刺激によって誘導される細胞死に関連している複合体の形成を制御している(Micheau and Tschopp, 2003)。その一つが、TNFR1がTNFαの刺激を受けてすぐにTRADD、TRAF2、RIPK1、E3 ubiquitin(Ub) cIAP1、cIAP2を動員して構築するComplex-Ⅰである(Silke, 2011; Ting and Bertrand, 2016)。もう一つは、このカスケードの下流で構築されるComplex-Ⅱである(Pasparakis and Vandenabeele, 2015; Wang et al., 2008)。Complex-Ⅰでは構成要素であるタンパク質のユビキチン化が起こり、NF-κBとMAPKsを活性化する。Complex-ⅡはRIPK1を構成要素とし、RIPK1とその他の構成要素であるタンパク質との相互作用によって、アポトーシス/ネクロトーシスを起こす経路の両方を活性化することが知られている。Complex-ⅠとComplex-Ⅱの両方に含まれるRIPK1は、様々な細胞死経路の活性化と炎症性シグナル伝達の制御に関与している。
 TNFαの刺激は、TAK1/p38α/MK2のカスケードと、IKKやNF-κBを介したMAPKsのカスケードによって伝達される。筆者らは、マウスのBMDM細胞やMEF細胞などを用いて、これらのシグナル伝達に関与しているタンパク質らを薬理学的阻害や欠損させることによって、TNFαによる細胞死について検証を行っている。結果、MK2を阻害すると細胞死が増強されることが示された。さらにこの細胞死にはRIPK1のリン酸化が必要であることもわかり、MK2を阻害するとRIPK1のリン酸化が起こらないことが判明した。上記の阻害剤を用いた検証により、TAK1/p38α/MK2のカスケードがRIPK1のリン酸化、つまり細胞死を制御していることが明らかになった。さらに筆者らはRIPK1のS321においてリン酸が起こっていることを見出し、RIPK1 S321はMK2に直接リン酸化されていることを明らかにした。このS321におけるリン酸かはComplex-Ⅱの形成を阻害する。他にもRIPK1はS166でリン酸化が起きていることが報告されており(Newton et al., 2016)、筆者らは検証の結果、Complex-Ⅰに局在するRIPK1はS321でリン酸化が起こり、後にS166でのリン酸化が起こること、またComplex-Ⅱに局在するRIPK1はS166でリン酸化が起こっていることを同定した。S321のリン酸化はMK2によるものであるが、S166のリン酸化はRIPK1による自己リン酸化である筆者らは考察している。これに加えてUbiCRest解析の結果、Complex-ⅠにおいてS321でリン酸化されたRIPK1はユビキチン化が起こらないことが分かった。またComplex-Ⅱに動員されるRIPK1の由来をDeath Domainを欠損したRIPK1を用いて検証したところ、Complex-Ⅰと細胞質の両方に由来していることがわかった。以上の結果より、MK2によるRIPK1 S321のリン酸化は、細胞の生存とサイトカイン産生を制御するTNFシグナル経路におけるチェックポイントとして機能すると筆者らは結論づけている。
 抗炎症剤のターゲットとしてMK2を選択することは近年考えられていたが、本論文によりその重要性がより示されることとなった。しかし前述したように、炎症性疾患が起こるプロセスには未だ不明な点が多いく、今後もさらに解明していく必要がある。

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