分子細胞生物学

PubMedID 28817800
Title TIA1 Mutations in Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Dementia Promote Phase Separation and Alter Stress Granule Dynamics.
Journal Neuron 2017 Aug;95(4):808-816.e9.
Author Mackenzie IR,Nicholson AM,Sarkar M,Messing J,Purice MD,Pottier C,Annu K,Baker M,Perkerson RB,Kurti A,Matchett BJ,Mittag T,Temirov J,Hsiung GR,Krieger C,Murray ME,Kato M,Fryer JD,Petrucelli L,Zinman L,Weintraub S,Mesulam M,Keith J,Zivkovic SA,Hirsch-Reinshagen V,Roos RP,Züchner S,Graff-Radford NR,Petersen RC,Caselli RJ,Wszolek ZK,Finger E,Lippa C,Lacomis D,Stewart H,Dickson DW,Kim HJ,Rogaeva E,Bigio E,Boylan KB,Taylor JP,Rademakers R
  • TIA1 Mutations in Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Dementia Promote Phase Separation and Alter Stress Granule Dynamics
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 田口 真梨
  • 投稿日 2017/09/27

 ALS(筋萎縮型側索硬化症)は最も一般的な運動神経疾患で、上位、下位運動ニューロンの進行的変性に特徴づけられる。運動機能不全、最終的に呼吸不全を起こし、死に至る病である。多くのALS患者はALSを単独に発症するが、FTD(前頭側頭型認知症)が随伴する場合がある。2つの疾患は遺伝的病原学において共通するところがあり、臨床病理学的にも似た特徴を示す。ALSを引き起こす原因遺伝子として、TDP-43, FUS, hnRNPA1などRNA代謝に関わるRNA結合タンパク質は、変異が入ることにより発症することが知られている。これらのRNA結合タンパク質は、核や細胞質のmembrane-less organellesの構成因子として知られている。近年、RNA結合タンパク質のプリオン様のLow Complexity Domain (LCD)にコードされる生物物理学的性質が、liquid-liquid phase separation (LLPS)を介してmembrane-lessの凝集体の形成を促進することが報告されている。
 ストレス顆粒(Stress granule : SG)は代表的なmembrane-less organellesのひとつで、細胞が受ける様々な外界ストレスへの防御機構として働く。熱ショック、小胞体ストレス、ヒ素やウイルス感染など、特定のストレスに曝されると一過的に細胞質内に形成される。SGは主にmRNAやリボソーム、RNA結合タンパク質により構成され、凝集によって翻訳を停止することで、mis-folding タンパク質やウイルスタンパク質の合成の抑制や、mRNAの取り込みによる選別や保護に寄与する。さらに、シグナル伝達因子を顆粒内に取り込むことで、一過的にシグナル伝達機能を抑え、アポトーシスを抑制することも明らかになっている。ストレス顆粒の形成は一過的で、その性質は可逆的である。これは、ストレスから解放されると消失し、素早く翻訳機構に戻ることを可能にする。SGの可逆性が失われると、ALS やFTDといった神経変性疾患の原因となる封入体の形成と蓄積を促進することが近年報告されているが、その発症メカニズムに関しては不明である。
 本論文で筆者らは、ALS, あるいはALS/FTD併発患者を対象とした全エキソームシークエンシング解析により、これまで知られていたTDP-43, FUS, hnRNPA1の変異に加えて、RNA結合タンパク質であるT cell-restricted intercellular antigen-1(TIA1)のLCD内の新規変異P362L及びA381Tを同定した。TIA1はSG形成を促進する分子として知られ、TIA1分子内のLCDの相互作用により、SG形成を進行させる。LCD内のP362L及びA381T変異が生じると、LCDを介したphase separationの傾向を強め、TIA1の生物物理学的性質を変化させることが示された。この物性の変化がSGの脱凝集の遅延を生じさせた。さらに、ALS/FTDにおいて、その繊維化が疾患の原因となることが知られているTDP-43は、SGに取り込まれると、可動性が減少し不溶化することが確認された。これらのことから、SGの可逆性の減少による脱凝集の遅延および蓄積によって、TDP-43のような高い濃度で凝集の傾向がある分子が、不溶化し徐々に蓄積するリスクは増加すると示唆された。
 TDP-43はdetergent耐性の凝集体を形成する一方で、TIA1繊維は不安定で可逆的である。そのため、これらの疾患プロセスにおいて、TIA1や関連したSGマーカーが、成熟したTDP-43-positive 封入体の構成因子として持続するかどうかはまだ不明であると筆者らは述べている。本論文内では、ALS/FTD患者の検死の免疫組織染色を行っており、高頻度でTDP-43-positiveの封入体が確認されていた。しかし、興味深いことにTIA1とTDP-43の二重染色ではその共局在は見られず、このことは、TDP-43が繊維化した封入体にTIA1が取り込まれていないことを示す。よって、TIA1変異が直接TDP-43の不動化・不溶化に寄与することよりも、TIA1変異による、phase separation への傾向の増加と、SGの可逆性の変化が、同様にSGに取り込まれたTDP-43同士の分子間相互作用を強める働きをすることが考えられる。本論文の知見により、TIA1などの遺伝子変異に伴う、SGのようなmembrane-less organellesの可逆性の変化が、ALS/FTDの発症要因となることが示されたことは大変興味深い。

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