分子細胞生物学

PubMedID 27818144
Title TRAF6 Restricts p53 Mitochondrial Translocation, Apoptosis, and Tumor Suppression.
Journal Molecular cell 2016 Nov;64(4):803-814.
Author Zhang X,Li CF,Zhang L,Wu CY,Han L,Jin G,Rezaeian AH,Han F,Liu C,Xu C,Xu X,Huang CY,Tsai FJ,Tsai CH,Watabe K,Lin HK
  • TRAF6 Restricts p53 Mitochondrial Translocation, Apoptosis, and Tumor Suppression.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 徳永 翼
  • 投稿日 2017/10/10

 p53は細胞の生死を決定する重要な因子であり、細胞周期の制御やアポトーシス、細胞老化、エネルギー恒常性などに関わっている。またヒトの様々な癌において頻繁に変異しており最も重要な腫瘍抑制因子と考えられている。そのためp53の活性制御の分子メカニズムを理解することは非常に重要である。p53の多くは核内に局在しプロモーターやエンハンサーに結合し細胞周期の制御やアポトーシスに関与する標的の遺伝子の発現を誘導あるいは抑制している。そのため、p53の生理機能はその転写活性を介したものであるとして受け入れられてきた。DNAダメージ刺激に応じた転写活性はアセチル化により制御され、そのアセチル化はCBP/p300との相互作用によると報告されている(Gu and Roeder, 1997)。しかしどのようにDNAダメージがp53とCBP/p300との相互作用を誘発するのかは未だ解明されていない。筆者らはマウスの胸腺細胞を用いてRNAマイクロアレイ解析を行ったところ、DNAダメージ刺激に応じて誘導されるp21やGADD45の発現がTRAF6ノックアウト細胞では抑制されているということを見出した。またp53をアセチル化することでその転写活性を制御するp300という転写因子(Grossman, 2001)とp53の結合がTRAF6ノックアウト細胞では低下することを発見した。しかし、どのようにしてユビキチン化されたp53がp300との結合能を獲得するのか、またそこにはどのような制御機構が存在するのかなどは不明で、さらなる検証が必要である。
 p53は核内で転写活性の役割を持つのみでなく、転写に依存しないミトコンドリアを介したアポトーシスを誘発すると報告されている(Moll et al., 2005)。またp53はDNAダメージに応じてミトコンドリア膜に移行し、Bak/Baxに結合することでそれらのオリゴマー化を促進すると知られている(Chipuk et al., 2004)。これはミトコンドリアの外膜透過性、シトクロムcの放出、カスパーゼ3の活性化そしてアポトーシスを誘発する(Chipuk and Green, 2008)。これらの研究結果からミトコンドリアにおけるp53の機能に注目が集まっており、その局在や活性化のメカニズムに関して明らかとすることが重要となっている。
 今回筆者らは無刺激時にミトコンドリア移行しアポトーシスを引き起こすp53の変異体の報告(Chipuk et al.,2004)に着目し、生理的条件下でp53を細胞質に留め、ミトコンドリア移行を阻害するメカニズムがあると考えた。初めにTRAF6というE3リガーゼが細胞質のp53をK63鎖ユビキチン化させることを発見した。また、p53のミトコンドリア移行阻害剤を用いた実験を行うことで、DNAダメージ刺激時にTRAF6によるユビキチン化を免れたp53がミトコンドリアに移行することでアポトーシスを誘発するということがわかった。
 p53はBakに結合することでミトコンドリアに局在することが知られており(Leu et al., 2004; Pietsch et al., 2007)、また生理的条件下ではMCL1という抗アポトーシス機能を持ったBcl-2ファミリータンパクがBakと結合し、それによりアポトーシスが制御されていることが知られている(Leu et al., 2004)。筆者らはp53-K24R(ユビキチン化部位変異体)やTRAF6のリガーゼ活性を不活化させた変異体を発現する細胞ではp53がユビキチン化されずMCL1及びBakと結合することができ、MCL1による抑制を免れたBakがオリゴマー化、そしてアポトーシスすることを発見した。
 筆者らはTRAF6を活性化させる上流のシグナルにも注目した。DNAダメージ刺激によるTRAF6のリン酸化がATM/ATR阻害剤により抑制されることやSQ/TQモチーフ(ATM/ATRによるリン酸化コンセンサス配列)に変異のあるTRAF6はリン酸化されずDNAダメージを受けても核移行しないということが分かった。しかし、直接的にTRAF6のリン酸化を担うキナーゼを特定はできず、TRAF6活性化のメカニズムについては更なる解析が必要である。
 また、TRAF6と野生型p53を発現させたH1299細胞では腫瘍抑制や細胞死が阻害されていたのに対し、TRAF6とp53-K24Rを発現させた細胞ではそれらが阻害されなかった。さらにTRAF6を高発現している大腸がん患者(p53 WT)では化学療法や放射線療法に対する抵抗性が高いことがわかった。筆者らはこれよりTRAF6の高発現はアポトーシスを抑制し、またがん患者の化学療法や放射線療法への反応性の低下に関連すると述べている。
 過去の研究においてp53のミトコンドリア移行の制御にはMDM2が関連すると報告されていた。本研究においてp53のミトコンドリア移行のメカニズムにはTRAF6のユビキチン化が関与することを発見した。しかし、TRAF6の活性化メカニズムには未解決の部分が多く残されている。また、細胞内において重要な役割を果たしているp53の転写活性へのTRAF6の関与については未だ不明な点が多く今後さらなる研究が必要だと考える。

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