分子細胞生物学

PubMedID 28889947
Title An NF-κB Transcription-Factor-Dependent Lineage-Specific Transcriptional Program Promotes Regulatory T Cell Identity and Function.
Journal Immunity 2017 Sep;47(3):450-465.e5.
Author Oh H,Grinberg-Bleyer Y,Liao W,Maloney D,Wang P,Wu Z,Wang J,Bhatt DM,Heise N,Schmid RM,Hayden MS,Klein U,Rabadan R,Ghosh S
  • An NF-κB Transcription-Factor-Dependent Lineage-Specific Transcriptional Program Promotes Regulatory T Cell Identity and Function.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 堀江 健太
  • 投稿日 2017/10/13

 生体内において,免疫恒常性というのは免疫細胞が担う活性化作用と抑制性作用のバランスが適正に保たれることによって維持される.このようなバランスが保たれる中で,抑制性の働きを担う代表的な免疫細胞の一つとして,制御性T細胞(Treg: regulatory T cell)がある.Tregは,naïve CD4+Tcell(抗原刺激を受けていない細胞)から分化してFoxP3を発現することによって成熟し,免疫反応の阻害をすることで抑制的な機能を果たす.Tregの分化においては先行研究でc-Relの重要性について言及されている(Isomura et al., 2009; Long et al., 2009; Ruan et al., 2009).TregはTconvと同じように,TCR(T cell receptor)複合体のライゲーションを介して活性化し,canonical NF-κBシグナルを誘導する.ただ, TconvではTCR刺激によって誘導されるcanonical NF-κBサブユニットであるp65(encoded by Rela)とc-Rel(encoded by Rel)が,Tcellの活性化・増殖において重要な遺伝子の発現を誘導することが示唆された一方で,TregではまだこれらのNF-κBサブユニットがTregの中でどのような機能を果たしているかということがわかっていなかった.
また,Tregの抑制機能が破綻して働かなくなると,致死性の重篤な自己免疫疾患が引き起こされる.このように,Tregは免疫恒常性を保つにあたって非常に重要な役割を果たしているので,Tregが抑制機能を果たすためにはどのような因子が重要であるかを解明することは,免疫疾患を治療するためのターゲットを見つけるという意味でも非常に大切である.
 今回筆者らは,成熟したTregにおいてcanonical NF-κBサブユニットをコンディショナルノックアウトしたマウス(RelKO, RelaKO, RelRela double KO)を用いて,遺伝子欠損によってTregの機能がどのような影響を受けるのかを検討した.その結果,これらのノックアウトマウスのうち,RelaKO,RelRelaKOマウスにおいては致死性の重篤な自己免疫疾患が生じていた.また,他のTreg抑制機能評価実験からもRelKO, RelRelaDKOでは抑制機構が働いていないというような結果が得られたことから,canonical NF-κB pathwayはTregが機能を発揮するのに重要な役割を果たすということが示唆され,特にRelaがこれらの役割への寄与が大きいということが示唆された.
また筆者らは別の系を用いて,Treg成熟後のTreg identityの維持のためにcanonical NF-κBシグナルは持続的に必要であるかどうかを検討した.その結果,canonical NF-κBシグナル(特にRel)は,Treg signature遺伝子の発現に関与することによってTreg identityの維持に持続的に関与しているということが示唆された.
これらのことから筆者らは,canonical NF-κBシグナルは,Tregの機能,Treg identityの維持において重要な役割を果たしているのだと結論付けた.

 制御性T細胞は,未だ未知の部分が多いような細胞であり,例えば,どのような機序を経てeffector Tcellの活性化を抑制するのかなど,まだ不明瞭な部分もあります.その中で,本論文においてTregの機能において重要な因子が見出されたことは,今後のTreg機能についての研究において手がかりとなるのではと考えられます.またTregの機能を知るということは自己免疫疾患の発症原因を解明するにあたっても重要になると考えられ,今後の解析によって,そのような自己免疫疾患の発症機序が明らかになること期待します.

返信(0) | 返信する