分子細胞生物学

PubMedID 28607485
Title Exosomes facilitate therapeutic targeting of oncogenic KRAS in pancreatic cancer.
Journal Nature 2017 06;546(7659):498-503.
Author Kamerkar S,LeBleu VS,Sugimoto H,Yang S,Ruivo CF,Melo SA,Lee JJ,Kalluri R
  • Exosomes facilitate therapeutic targeting of oncogenic KRAS in pancreatic cancer.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 広瀬 思帆
  • 投稿日 2017/10/23

 PDACは膵管腺癌と呼ばれ、消化液などを運ぶ役割をする導菅細胞が癌化することで起こる。膵癌はKRASの変異がドライバーとなり、遺伝子異常の蓄積によって多段階に発がんをするという知見が得られており(Hidalgo, M et al., Clin. Cancer Res 2012)、前癌病変を経てついには基底膜を超え浸潤がんになると考えられている。今までにKRASを標的とする遺伝子操作が先行研究で行われてきたが、RASファミリータンパクを直接治療標的とすることはいまだに困難となっている(Pecot, C.V. et al.,Mol. Cancer Ther. 2014)。肺や大腸がんモデルでは、RNAiを用いたKRAS及びその下流遺伝子を標的とした治療法で有効性を示している(Yuan, T.L. et al., Cancer Discov. 2014)。がん遺伝子であるKRASをエレクトロポレーションにより直接標的とする方法は行われていたが、膵臓のような非肝臓実質組織への応用は困難であった。これまでにリポソームや微粒子にRNAiを運ばせる試みはなされてきたが、循環血液内に長く居残らないという課題は未解決のままであった(van der Meel, R. et al., J. Control Release 2014)。

 エキソソームはリポソームや微粒子とは異なり、その二重膜上に膜貫通型・膜アンカー型タンパク質を持ち、エンドサイトーシスの促進に寄与している。エクソソームはExtracellular Vesicle(細胞外小胞)という大きなくくりの一つとされており、主に細胞内での由来によってExosomes(エクソソーム)、Microvesicles(微小小胞体)、Apoptotic Bodies(アポトーシス小体)の 3 種類に分類されることが多い。アポトーシス小体がアポトーシスを起こした細胞から放出されるのに対し、エクソソームと MV はいずれも健康な細胞から放出される。エンドサイトーシスによって形成されたエンドソームの内側で、出芽するように形成される膜小胞であるILVを多数含むMVBが細胞膜と融合し、ILVが細胞外に放出される。この細胞外へ放出されるILVがエクソソームとされている経路である(Kowai, J. et al., Cell Biol.2014)。エキソソームは全ての細胞から産生・放出される細胞外小胞であり、血液中に自然に存在し主に細胞間のコミュニケーションツールとして働く。また、血中でも安定して存在する性質から、デリバリーツールとして応用しようとする研究が盛んに行われている。

今回の筆者らは、正常な繊維芽細胞様の間葉系細胞に由来するエキソソームに、発がん性KRAS(G12D)に特異的な短鎖干渉RNAあるいは短鎖ヘアピンRNAを組み込ませた。この組換えエクソソーム(iExosome)膜貫通型タンパク質であるCD47は、CD47-SIRPα結合による”don’t eat me signal”により単球やマクロファージによるファゴサイトーシスから守る働きを持つ。筆者らはまず、PANC-1を同所性発現させたマウスにおいて、iExosome及びiLiposome処理を施し、その後の増殖度を測定した。結果、コントロールと比較してiExosomeでは日数経過後も活性にほぼ変化が見られなかった。HE染色の結果においても、PANC-1増殖の顕著な抑制が確認された。次に筆者らは、iExosome膜上に存在するCD47についてさらに検証を行うため、CD47中和抗体添加時のPANC-1同所性発現マウスにおける細胞増殖を測定した。結果、CD47中和抗体を使用した場合には、顕著にiExosomeによる効果が抑制された。このことから、CD47とマクロピノサイトーシスは、iExosomeの取り込みと治療の有効性を促進することが示唆された。さらにiExosomeが、KTC/KPCマウスで膵臓がんにおいてどのような影響を与えるのかについて検証すべく、KTCマウスにiExosomeによる治療を生後18日/33日後に開始し、その生存率をカプランマイヤー曲線で測定した。結果、いずれにおいても治療による延命が確認された。また、C57/BL6マウスにKPC689を同所性発現させ、各治療を施した際の生存率をカプランマイヤー曲線により計測したところ、iExosomeによる治療のみ顕著な延命が確認された。このことから、iExosomeは、KTC/KPCマウスで膵臓がんの進行を抑制することが明らかとなった。

本研究にて筆者らは、CD47依存的に発がん性KRAS変異によるマクロピノサイトーシスが促進され、エクソソームの血液循環からのクリアランスが抑制されることを示した。筆者らは今後の課題として、マクロピノサイトーシスによって取り込まれたiExosomeがなぜリソソーム依存的な分解機構を免れているのかについて明らかにしていく必要があると述べている。しかしながら、本研究はエクソソームが新たなドラックデリバリーツールとして有用性があることを示しており、がん遺伝子であるKRASを特異的に標的とする、エクソソーム治療の新たな洞察を提供している。

返信(0) | 返信する