分子細胞生物学

PubMedID 28162969
Title Parathyroid Hormone Directs Bone Marrow Mesenchymal Cell Fate.
Journal Cell metabolism 2017 Mar;25(3):661-672.
Author Fan Y,Hanai JI,Le PT,Bi R,Maridas D,DeMambro V,Figueroa CA,Kir S,Zhou X,Mannstadt M,Baron R,Bronson RT,Horowitz MC,Wu JY,Bilezikian JP,Dempster DW,Rosen CJ,Lanske B
  • Parathyroid Hormone Directs Bone Marrow Mesenchymal Cell Fate.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 中野 裕希
  • 投稿日 2017/11/22

骨代謝は、破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成のバランスの上に成り立っています。両細胞の分化や活性化は様々なホルモンやサイトカインに制御されています。この骨代謝調節機構の破綻が骨粗鬆症や大理石骨病といった様々な骨疾患を引き起こすことが知られています。

副甲状腺ホルモンであるパラトルモンは、血中カルシウム濃度を上昇させる効果を示すことがよく知られています。主にその機構を担うのは、骨吸収です。PTHは、受容体であるPTH1Rをもつ骨髄間葉系細胞などに結合し、骨芽細胞の分化促進し、RANKLの発現を誘導します。また骨芽細胞にも結合し、アポトーシスの抑制の効果があることが知られています。RANKLを発現した骨芽細胞の増加は、結果として破骨細胞を活性化し、骨吸収が促進されます。しかし、PTHの骨吸収作用は、一方的に起こるわけでなく, 吸収を受けた部位での再形成 (リモデリング反応) も起こるので, PTHの持続投与は骨量を減少させますが, 断続的に投与 、つまり、一定の間隔をおいて複数回の投与を行なうことは、骨芽細胞の活性を破骨細胞よりも上回らせ、逆に骨量増加につながるということが分かっています。実際に、パラトルモン製材は薬として承認され、を断続的に投与する方法が、骨粗鬆症の治療法として、確立されています。しかし、このリモデリング反応のメカニズムは明らかになっていません。

そこで、筆者らは、骨髄内の未分化間葉細胞特異的にPTH1Rを欠損させることで、骨髄間葉細胞に対するPTHの作用を調べました。まず、PTH1Rのエクソン1がloxPによって挟まれているため、Creリコンビナーゼの活性によりE1が取り除かれ、フレームシフトにより、PTH1Rが発現しなくなるようなPTH1R fl/flマウスとPrx1 Creマウスを掛け合わせ、四肢の間葉細胞特異的にパラトルモン受容体を欠いたmutantマウスを作成しこのマウスのPhenotypeを観察しました。(Prx1 Creマウスは,Prx1プロモーターによって,主に四肢骨格形成にかかわる未分化間葉系細胞にCre を発現させるマウスです.)その結果、mutantマウスの後足の骨はコントロールの物に比べ、短いこと、脛骨の海綿骨と皮質骨が減少していることが分かりました。

筆者らは、これらの骨量の減少の原因が、骨芽細胞の活性の減少に由来するのではないかと考えて、脛骨から骨髄を取り出し、RNAを抽出したのち、RT-PCRを行いました。
その結果、mutantマウスにおいて骨芽細胞マーカーである(Runx2,Osx,Alp,Col1α1)とオステオサイトマーカーである(Ocn)のmRNA量の顕著な減少が観察されました。
さらに重要なことに、HE染色したパラフィン切片において骨髄を観察した結果、Mutantマウスの遠位の脛骨の骨髄では多くの空洞が観察されました。これは、骨髄細胞が成熟した脂肪細胞に置き換わっていて、大きな脂肪細胞に占領されていることを示唆していました。

そこで、筆者らは四酸化オスミウムで脂肪を特異的に染色し、μCTで脛骨を解析することで骨髄脂肪組織の可視化に成功しました。その結果、mutantマウスの脛骨では多くの領域を脂肪組織が占めていることが分かりました。

次に筆者らは、骨髄を占めていた細胞のpopulationを調べるために、脛骨から回収したbone marrowから赤血球を溶解して除き、遠心することで、脂肪細胞と骨髄細胞を分離しました。そして、RT-PCRを用いて遺伝子の発現を解析しました。最初に、分離した脂肪細胞のPth1rの発現量を調べた結果、コントロールに比べるとMutantマウス由来の細胞では、顕著に発現が減少が確認されました。さらに、分化した脂肪細胞マーカーである(Fabp4,Adipo,Perilipin) だけではなく、脂肪細胞で活発に働くことが知られている転写因子の発現の増加が認められました。
さらに、Bone marrow stromal cellを培養し、これらの細胞を脂肪細胞に分化させ、Oil red O染色を行いました。その結果、PTH1Rを欠いたBone marrow stromal cellはコントロールよりも脂肪細胞に分化しやすいことが分かりました。また、遺伝子レベルにおいても、mutantマウス由来の細胞で、脂肪細胞への分化誘導が強くかかっていることが分かります。これらの結果から、筆者らは間葉前駆細胞におけるPTH1Rの欠損は細胞運命に影響を与えると考えました。

次に筆者らは、PTHが in vivo で骨髄脂肪組織BMATの形成に影響を与えるのかどうかを検討しました。コントロールマウスとmutantマウスに生後8日目から2週間毎日、薬として承認されているPTHをinjectionし、三週齢になったら、脛骨を四酸化オスミウムで染色し、μCTで撮影、Total volumeに占める脂肪組織の割合を算出しました。その結果、コントロールマウスでは、PTHを投与していない群に比べて、PTH投与群は、脂肪組織の割合が顕著に減少していました。それに対して、Mutantマウスでは、PTHの投与によって脂肪組織の顕著な減少は観られませんでした。

コントロールマウスとPTHへの感受性を失っているmutantマウスに対する、PTHの効果をさらに示すために、筆者らは骨の切片を観察し、脂肪細胞の数をカウントしました。その結果、mutantマウスにおいては、PTHを投与しても脂肪細胞の顕著な減少が観察されませんでした。これらの結果は、パラトルモン投与が in vivoにおいて骨髄脂肪細胞形成を減少できること、また、パラトルモンが脂肪細胞の分化メカニズムをコントローㇽしているということを示唆しています。

In vivoでの発見をin vitroの実験で補完するために、筆者らは、コントロールマウスとmutantマウス由来のBone marrow stromal cellを脂肪細胞へと分化させました。両者の細胞にそれぞれ、培地にPTHを加えない群と、加える群を作成しました。PTHの断続的な投与を再現するために、PTHを1日置きに加えています。6日間立って分化後の細胞をOil red O染色しました。さらにこれらの細胞の吸光度を測定し、脂肪細胞に分化した細胞の割合を算出しました。その結果、コントロールの細胞はPTHによって、脂肪細胞に分化した細胞が顕著に減少していました。これに対し、mutantマウス由来の細胞は、最初からコントロール細胞に比べて脂肪細胞に分化した細胞が多く、PTH投与をしても、脂肪細胞に分化した細胞の量に変化が観られませんでした。さらに、PTHによる脂肪細胞分化細胞の減少を分子レベルで観察するために、筆者らは、PTH処理した細胞を用いてRT-PCRを行いました。その結果、PTH処理によってコントロール細胞では観られた脂肪細胞マーカー群の発現減少が、PTH1Rを欠いた細胞においては、観られませんでした。
次に、筆者らは、ヒトにおいてもPTH投与が骨髄の脂肪細胞の減少を引き起こすのかどうかを検証するために、過去の論文のデータから、7人の男性の骨髄の生体組織診断を行いました。その結果、18か月の断続的PTH投与によって骨髄の脂肪細胞の大きさに変化はなかったものの、数が27%減少していたことが分かりました。この結果からPTHの断続的な投与による骨髄の脂肪細胞の減少は男性のヒトにおいても観察されました。
これらの結果から、PTHはin vivo,in vitroでともに、BMATの形成を制御していることが分かりました。

先ほどの筆者らの実験から、四肢の間葉細胞特異的PTH1R欠損マウスの細胞での骨量の減少は骨芽細胞の活性が減少しているからだということが示唆されていました。しかし、筆者らは、コントロールマウスとmutantマウスの骨切片をTRAP染色し、観察した結果、mutantマウスの切片において、TRAPポジティブな破骨細胞が増加することを発見しました。そこで破骨細胞分化誘導するRANKL、その受容体であるRANKとRANKLのデコイ受容体であるOPGの遺伝子発現を調べることにしました。PTH1Rが欠損していない脊髄の骨髄では、両者の発現量はコントロールとmutantマウスの間で変化は観られませんでした。これに対してPTH1Rが特異的に欠損しているmutantマウスの長骨をコントロールのものと比較した結果、OPGの遺伝子発現に変化は見られなかったものの、RANKとRANKLの発現量が顕著に増加していました。このことから長骨においてPrx1CREによる間葉細胞のPTH1Rの欠損が引き起こす、RANKLの発現上昇が、Mutantマウスの破骨細胞増加の原因であると考えられます。
この現象をさらに詳しく解析するために、筆者らはmutantマウスの脛骨の切片を、詳しく観察しました。その結果、骨髄内の多くの大きな脂肪細胞は、TRAPポジティブな破骨細胞が並んで存在している骨表面に接する位置に存在していました。このことから、脂肪細胞は骨表面の破骨細胞とcross communicationしている可能性が示唆されました。

次に筆者らは、Ranklの遺伝子発現増加のソースを調べるためにコントロールマウスとmutantマウスのすべての骨髄と骨髄脂肪組織をそれぞれ回収し、RT-PCRを行いました。その結果、mutantマウスのBMとBMATにおいて、Rankl発現レベルの顕著な上昇が確認されました。さらに、RANKLのタンパク質発現量を調べるためにコントロールマウスとmutantマウスの血清と骨髄の上澄をELISAで解析しました。その結果、PTH1R欠損サンプルにおいて、RANKLタンパク質の顕著な増加が観察されました。血清や上澄で増加しているので、分泌型のRANKLであると考えられます。

これらの結果からPTH1Rの欠損は、間葉細胞から骨髄脂肪細胞への制御不能な分化を誘導し、分化した脂肪細胞はRANKLを高発現し、骨吸収を誘導しているということが示唆されました。

この研究から、筆者らは、骨髄間葉細胞特異的にPTH1Rを欠損したマウスは、骨量の減少、骨髄脂肪の増加と強い骨吸収というPhenotypeを呈することをつきとめました。また、骨髄間葉細胞由来の骨髄脂肪細胞はRANKLを発現しており、破骨細胞形成に関与しているということも突き止めました。さらに、骨髄間葉細胞のPTH1R受容体欠損が、脂肪細胞への分化を促進すること、コントロールマウスにおいては断続的なPTHの投与により、分化が抑制されることから、断続的なPTH刺激が骨髄間葉細胞から脂肪細胞への分化を抑制している、つまり細胞運命を決定している、ということを世界で初めて明らかにしました。
このPTHが間葉細胞の細胞運命を決めるというメカニズムの発見は、骨粗鬆症でのPTH治療の効果を明らかにする重要なカギになると考えられます。

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