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PubMedID 28783657
Title Plasmodium products persist in the bone marrow and promote chronic bone loss.
Journal Science immunology 2017 Jun;2(12):.
Author Lee MSJ,Maruyama K,Fujita Y,Konishi A,Lelliott PM,Itagaki S,Horii T,Lin JW,Khan SM,Kuroda E,Akira S,Ishii KJ,Coban C
  • Plasmodium products persist in the bone marrow and promote chronic bone loss
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 弓桁 洋
  • 投稿日 2017/11/22

 マラリアはplasmodium属の原虫 (以下マラリア原虫) によって引き起こされる感染症であり、原虫を媒介するハマダラカ (anopheles) の生息域である南米北部やアフリカ中部、中東諸国の国々で疫学上、特に問題となっており、新規の感染者は年間2億人を数える。
マラリア原虫に感染すると軽度~重度の貧血を起こすがこれは原虫が中間宿主である人の体内で無性生殖を行う際に赤血球に寄生し、その結果赤血球を破壊することに起因する。また貧血以外の症状として感染が重篤な場合、呼吸困難や神経症状 (脳性マラリア) を併発することもありしばし致命的となる。原虫によるこうした症状が広く知られている一方で、マラリアには隠された全く別の病害がある可能性がこれまでに噂されてきた。つまりマラリアの多発地域では栄養状態に関係なく子供の成長遅延が認められることが多いという報告と(Michell et al., Sci immunol, 2017)、多孔性骨病変の発生率が高い (Smith N E et al., Am. J. Phy. Anthropol, 2015) という2種類の報告から、マラリア原虫が骨に何かしらの悪影響を及ぼしている可能性が考えられてきた。
 今回筆者らはマラリア原虫が骨の恒常性に与える影響について解明するために、以下の点に着目した。1 マラリア原虫の感染は樹状細胞、マクロファージまたT細胞の活性化を介して過剰な炎症応答を惹起する (Srivas J et al., immunity, 2015) 2 マラリア原虫は骨髄内に侵入する (Joice R et al., Sci. Transl. Med, 2015) 3 骨髄内での過剰な炎症性サイトカインは破骨細胞形成を促進する (Janja Z et al., Biochemica Medica, 2013) これらの報告は骨髄内に侵入したマラリア原虫が過剰な炎症応答を惹起することで骨代謝バランスに影響を与え、骨に何かしらの悪影響を及ぼしている可能性があることを示唆していた。本論文はマラリア原虫が骨に与える影響を分子レベルで検討した結果、これまで全く未解明であったその病害の詳細とその治療方法を発見したものであり以下に簡潔に要約する。
 始めに、筆者らはマウスマラリアモデルを使って一回のマラリア感染が骨量に与える影響を検討した。その結果、血中及び骨中に原虫が認められる感染14日後 (急性期) の時点だけではなく、非常に驚くべきことに、原虫が全く検出されなくなる感染30日後 (回復期) や90日後 (慢性期) の時点においても骨量の減少が生じるということを明らかにした。この結果はマラリア感染が骨量を減少させるということを明確に示しているとともに、回復期以降の骨量の減少が寄生虫本体とは関係がないということを示唆していた。そこで彼らは次に、急性期及び回復期以降で認められる骨量の減少がどのような分子機構で引き起こされているのかをそれぞれ検討した。その結果急性期においては、骨内でIFN-γなどのサイトカインの分泌が亢進することで破骨細胞形成が抑制され、さらに骨芽細胞の活性も阻害されることにより骨代謝バランスが破綻することで骨量が減少しているということを解明し、また回復期以降においては、原虫本体ではなく、原虫が赤血球に寄生したことにより生成される原虫生成物 (Hemazoin等) が破骨前駆細胞や骨芽前駆細胞からの過剰な炎症性サイトカインの分泌を誘導することで破骨細胞形成を促進させ骨量の減少を導いているということを明らかにした。
重要なことに、本論文では骨粗鬆症などの骨減少性疾患の際に骨量の回復効果がすでに実証されているVitDがマラリアの際の骨量の減少にも応用できるということを証明しており、今後のマラリア治療において抗マラリア薬に加えてVitDを併用することが患者のQOLを維持する上でカギとなることを提案している。

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