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PubMedID 28572092
Title Cylindromatosis Tumor Suppressor Protein (CYLD) Deubiquitinase is Necessary for Proper Ubiquitination and Degradation of the Epidermal Growth Factor Receptor.
Journal Molecular & cellular proteomics : MCP 2017 Aug;16(8):1433-1446.
Author Sanchez-Quiles V,Akimov V,Osinalde N,Francavilla C,Puglia M,Barrio-Hernandez I,Kratchmarova I,Olsen JV,Blagoev B
  • Cylindromatosis Tumor Suppressor Protein (CYLD) Deubiquitinase is Necessary for Proper Ubiquitination and Degradation of the Epidermal Growth Factor Receptor.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー 小嶋由希子
  • 投稿日 2017/12/04

EGF(上皮成長因子)シグナル伝達経路は細胞の増殖や生存などの調節に深く関わっており、細胞恒常性の維持に重要な役割を担っている(Lemmon et al, Cell, 2010)。このように細胞運命を左右する経路であるため適切な細胞応答が誘導されるよう厳密な調節機構を持つことが分かっているが、その調節メカニズムは非常に複雑であるため未だ全容の解明には至っていない。
解明が進まなかった背景の1つに、以前はEGFシグナル伝達経路全体の挙動を調べる手法がなく、注目因子を個別に調べていかなければならなかったことが挙げられる。しかし近年プロテオームスケールでの解析が可能となり、EGFシグナル伝達経路において活性化しているタンパク質群の包括的な解析も進められるようになった。
本論文の筆者らの研究チームによる先行研究においてEGF刺激依存的にチロシンリン酸化を受けるシグナル伝達因子を探索したところ、CYLD(Cylindromatosis tumor suppressor protein)というタンパク質がEGF刺激によりチロシンリン酸化レベルが約24倍も上昇していることが確認された(Blagoev et al, Nat Biotechnol, 2004)。この結果を踏まえ、今回筆者らはEGFシグナル伝達経路に関するこれまでの研究では注目されてこなかったCYLDに関して当該経路における役割を調べることとした。
本論文の科学的重要性は、nanoLC-MS/MS解析やウェスタンブロッティング、免疫蛍光染色を組み合わせて実験を行うことで、CYLDがEGF刺激依存的なユビキチン化修飾に必要であると示されたことである。
まず筆者らはHeLa細胞においてshRNAを用いてCYLDをサイレンシングし、EGF(-)/(+)におけるユビキチン化タンパク質量の変化を調べた。CYLDは脱ユビキチン化酵素であることからサイレンシングによりEGF刺激依存的なユビキチン化タンパク質量が増加すると予測されたが、結果はその反対でCYLDのサイレンシング下ではEGF刺激依存的なユビキチン化タンパク質量は減少した。この現象をさらに詳しく調べるため、CYLDのサイレンシングでユビキチン化レベルが減弱する因子をnanoLC-MS/MSシステムを用いて解析した結果、EGFRやユビキチンリガーゼの一種であるCbl-bなどの因子が同定された。さらに、CYLD自身はアミノ酸配列中15番目のチロシンがEGF刺激依存的にリン酸化され、この部位に結合する因子としてCbl-bなどが同定された。
この結果をもとに筆者らは、CYLDとCbl-b、EGFRの3因子が相互作用しているか否かを検証した。抗EGFR抗体と抗Cbl-b抗体を用いて免疫沈降実験を行った結果、CYLDのサイレンシングによりEGFRとCbl-b間の相互作用が減弱することや、EGF刺激によりEGFRとCYLD間の相互作用が増強するという結果を得た。
また、CYLDのサイレンシングによりEGF刺激依存的なEGFRのユビキチン化レベルが減弱することから、ユビキチン化修飾に続くEGFRの分解にCYLDが関与するのかを免疫蛍光染色などで検証した。その結果、EGF刺激2時間においてCYLDのサイレンシング下ではEGFRの分解が抑制されていることが分かった。
さらに筆者らは、CYLDのチロシンリン酸化を阻害するとCYLDをサイレンシングした場合と同様の結果が得られるかを検証した。CYLDのEGF刺激依存的なリン酸化部位として同定したアミノ酸配列15番目のチロシン(Y)残基をフェニルアラニン(F)に置換したCYLD(CYLD Y15F)を発現するHeLa細胞を作製しEGF刺激を加えたところ、CYLD Y15F発現細胞ではEGF刺激依存的なEGFRのユビキチン化修飾の減弱、EGFRとCbl-bの相互作用の減弱、及びEGFRの分解抑制が確認された。
本論文はEGFシグナル伝達経路の調節機構に関与する新たな因子としてCYLDに注目した点に新規性があり、さらにCYLD自身は脱ユビキチン化酵素であるにも関わらずEGFシグナル伝達因子のユビキチン化修飾、特にEGFRのユビキチン化修飾及び分解に必要であるという興味深い発見を示している。
EGFRの分解はEGFシグナルの強度や持続性の調節に密接に関与するステップであり、今回はそのステップの一部分が明らかとなったが、具体的な仕組みや関与する因子の全貌は未だ明らかとなっていない。プロテオーム解析によるボトムアップ的な未知の関連因子の探索や、その結果同定された関連因子の詳細な機能解析を相互に組み合わせた研究が今後も不可欠だと感じる。

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