分子細胞生物学

PubMedID 29398621
Title Myosin VI-Dependent Actin Cages Encapsulate Parkin-Positive Damaged Mitochondria.
Journal Developmental cell 2018 Feb;44(4):484-499.e6.
Author Kruppa AJ,Kishi-Itakura C,Masters TA,Rorbach JE,Grice GL,Kendrick-Jones J,Nathan JA,Minczuk M,Buss F
  • Myosin VI-Dependent Actin Cages Encapsulate Parkin-Positive Damaged Mitochondria.
  • Posted by 大阪市立大学 医学研究科 分子病態学 寺脇 正剛
  • 投稿日 2018/03/08

 マイトファジーは品質の低下したミトコンドリアをオートファジーにより選択的に分解することで細胞の恒常性を維持する機構である。オートファジーは本来バルク分解とも呼ばれる非特異的な細胞内基質の分解機構であるが、損傷したミトコンドリアはユビキチンE3リガーゼであるParkinによりユビキチン化され、さらにユビキチン化されたミトコンドリアとオートファゴソーム上のLC3タンパクの双方と結合しうるOPTN、NDP52、PAX1BP1といったアダプター分子が損傷したミトコンドリアをオートファゴソームにリクルートすることによって選択的な分解を可能としている。これまでに筆者らはOPTN、NDP52、PAX1BP1といったアダプター分子がモータータンパクであるミオシンVI(MyoVI)と直接相互作用しうること、さらにMyoVIがユビキチンやParkinとも結合することなどから、MyoVIがParkin依存的なマイトファジーに関与すると予測し今回の研究を行なった。

 まず筆者らは超解像顕微鏡を用いてイメージングベースの解析で、細胞をミトコンドリアの脱共役剤であるCCCPやアンチマイシン/オリゴマイシンで細胞を処理して損傷ミトコンドリアを誘導したところ、MyoVIとParkinのミトコンドリアの外膜に集積することを見出した。MyoVIとParkinの相互作用はミトコンドリアの損傷によって誘導されるわけではなく定常的なものであったが、ミトコンドリアへのMyoVIのリクルートはParkinのE3活性依存的であることを免疫沈降により示している。一方でOPTN、NDP52、PAXBP1といったオートファジーアダプター分子をノックダウンしてもMyoVIのミトコンドリアへの局在には影響がなく、また逆にMyoVIのノックアウト細胞においてはアダプター分子は正常に損傷ミトコンドリアに集積することから、MyoVIとアダプター分子群はマイトファジー誘導時に相互作用するものの、損傷ミトコンドリアへの局在メカニズムは独立していることが示唆された。MyoVIの損傷ミトコンドリアへの局在はC末端部分のTailドメインがあればよく、Tail内のユビキチン結合ドメインであるMyUbに変異(I1104A)を導入すると局在が失われることから、MyoVIの動態にはユビキチンの関与が強く示唆される。

 次に筆者らは、ミオシンはアクチン線維の動態に関わるモータータンパクであることから、アクチンの動態について検討を加えた。CCCPによりマイトファジーを誘導した細胞を蛍光標識ファロイジンで染めたところ、ミトコンドリアを囲うようなF-アクチンの集積が認められた。 これを筆者らは損傷ミトコンドリアを覆う『ケージ』と称している。このF-アクチンケージはアクチン動態を制御するcdc42, Arp2/3, Formin, N-WASPといった既知の分子が関わっており、これらに対する阻害剤で処理するとMyoVIやアクチンの集積が認められなくなる。またMyoVIのTailドメインを強制発現させるとドミネガとして作用し、F-アクチンケージの形成が阻害される。これらのことからF-アクチンケージは損傷ミトコンドリアにリクルートされるMyoVI依存的に形成されることがわかった。

 筆者らはこのアクチンケージが損傷ミトコンドリアを隔離し健常なミトコンドリアとの再融合を防ぐことで細胞全体としてのミトコンドリアの品質維持に寄与していると予測し、F-アクチンケージがCCCP処理後のミトコンドリアのサイズに与える影響について調べた。その結果、野生型のMyoVIを発現させた細胞と比較してドミネガであるTailドメインのみのMyoVIを発現させアクチンケージの形成を阻害した細胞ではミトコンドリアサイズの増大が認められた。またArp2/3阻害剤であるCK666で処理すると未処理の細胞に比べてミトコンドリアの再融合が進んでいることが明らかとなった。ミトコンドリアの品質劣化はエネルギー産生に影響及ぼすことが予測される。そこで筆者らはMyoVIに変異を持つSnell's walterマウス(内耳におけるMyoVIが失われることによる難聴モデルマウス)由来のMEFを解析したところ、変異MEFは野生型と比較して総ミトコンドリア量が50%増加する一方、酸素消費速度(OCR)の低下が認められた。これはマイトファジー活性の低下とともにミトコンドリア品質も低下していることを意味している。さらにHEK293細胞のMyoVIをノックダウンすると、グルコース培地(エネルギー産生手段として酸化的リン酸化と解糖が利用可能)ではノックダウン細胞も遅いながら増殖を示すが、ガラクトース培地(酸化的リン酸化のみ)ではノックダウン細胞はほぼ増殖が停止した。これらの結果はMyoVIがマイトファジーを介したミトコンドリアの品質管理に非常に重要な役割を持っていることを示唆している。

 今回の論文では、これまでに知られていた選択的オートファジーのアダプター分子とは全く性質の異なる分子MyoVIによるマイトファジーメカニズムの一端が明らかにされた。しかしながらMyoVIはParkinのE3活性や自身のユビキチン結合ドメイン依存的に損傷ミトコンドリアにリクルートされており、またオートファジーアダプター分子とも相互作用することから、既知のマイトファジー機構との機能的関連性も強く示唆される。マイトファジーの新しい分子機構が明らかにされたことで、今後マイトファジー研究への新たなアプローチが期待される。

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