分子細胞生物学

PubMedID 29129640
Title The Stress Granule Transcriptome Reveals Principles of mRNA Accumulation in Stress Granules.
Journal Molecular cell 2017 Nov;68(4):808-820.e5.
Author Khong A,Matheny T,Jain S,Mitchell SF,Wheeler JR,Parker R
  • The Stress Granule Transcriptome Reveals Principles of mRNA Accumulation in Stress Granules.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 藤川 大地
  • 投稿日 2018/03/16

 ストレス顆粒(SGs)は、膜構造を持たない細胞質内構造体であり、mRNAやタンパク質によって構成される。SGsは細胞が特定のストレス刺激(oxidative, nutritional, genotoxic, proteotoxic, osmotic stress, UV irradiation and chemotherapeutic agents)に曝されたときに形成され、タンパク質の翻訳を停止し、異常タンパク質の蓄積を防ぐことで細胞のストレス防御機構として機能する。SGsの形成亢進やSGs分解機構の破綻が、異常なSGs様の凝集体を形成することが報告されている。また、神経変性疾患に関わるタンパク質を多く取り込んでおり、Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS) やmultisystem proteinopathyのような神経変性疾患に関係している。SGsはmRNAがRNA結合タンパク質の足場として機能することで会合し、そのタンパク質間での様々な相互作用によって形成される。SGsは、密度が濃く・結合の強い領域 “Core” と、密度が低く・結合の弱い領域 “Shell” の2つの領域から構成されている。このCoreとShellで構成分子が違うかどうかは報告されていない。先行研究において、YeastとhumanのSGsのCoreを精製し、質量分析によってその構成分子を同定したところ、翻訳開始因子やRNA結合タンパク質、Prion-like domains (PrLDs)を有したタンパク質、神経変性疾患に関わるタンパク質が多く検出された。このことからも、SGsが神経変性疾患に関係していることがわかる (Jain, S et al., Cell, 2016)。
 これまで、SGsの構成分子の解析はタンパク質に着目した報告が多く、SGsに取り込まれるRNAについて、ほとんど報告がない。いくつかのmRNAは、SGsに取り込まれることが報告されているが、SGsに取り込まれるmRNAやncRNA、lincRNAを調べた報告はない。まず、筆者らは、G3BP1-GFP 安定発現U-2OS細胞にAs (5mM, 1 h)処理し、G3BP1-GFP が形成するSGsのCoreを精製した。そして、Coreに含まれるRNA分子を同定するために、RNA-seq 解析を行った。SGs coreの Transcriptomes 解析の結果、FPKMの値をもとに、SGsに取り込まれたRNA分子をEnriched /Neither /Depletedの3グループに分けることができた。この結果が確からしいか検証するために、In situ単一分子蛍光ハイブリダイゼーション法(smFISH : single-molecule FISH)によって、局在の確認と定量をおこなった。その結果、smFISHにおいても、同様の結果を確認することができた。また、smFISHによる定量によって、AHNAK, DYNC1H1,PEG3, ZNF704, CDK6 の mRNAsが多く取り込まれていることが示されました。これは、Transcriptome 解析の結果と一致しており、RNA-seqの結果が確からしいことが示された。次に、どんなRNA分子が取り込まれていたのか調べた。その結果、細胞全体の2.3 %のRNA分子がSGsに取り込まれていることがわかり、さらに少ないが、ncRNAも0.6 %取り込まれていることがわかった。SGsに取り込まれたRNA分子の内訳を調べると、その多くはmRNAであることが示され、僅かではあるが、ncRNAも取り込まれていた。しかし、その量は少なく、細胞内のmRNA分子全体のわずか10 %であった。mRNAにおいても、3グループにわけることができ、この3グループのmRNAの性質の違いを調べることで、SGsに取り込まれるmRNAの特徴を調べた。その結果、高い translation efficiency を示すmRNAはSGs にあまり取り込まれず、低い translation efficiencyを示すmRNAはSGsに多く局在していることが示された。また、mRNAの長さを調べた結果、SGsに多く取り込まれるmRNAは長いことが明らかになった。さらに、CDS (Coding Sequence)と3’UTRの長さは、SGsへの優先的な取り込みに重要であることが示された。以上の結果から、SGsに多く取り込まれるmRNAを調べたところ、① 翻訳効率の低いmRNA、② CDSや3’UTRの長さが長い、という特徴があることが明らかになった。ncRNAやlincRNAも長い方が取り込まれ易いことも明らかになった。筆者らは、Mammalianで観察されたこれらの性質が、他の生物種でも保存されているのか調べており、Yeastにおいても同様、長さが長く、翻訳効率の低いmRNAはSGsに多く局在していることが示された。最後に、筆者らは、eCLIPのデータセットをもとに、SGsに多く取り込まれるmRNAに対し、SGsに取り込まれるタンパク質とそうでないタンパク質の結合サイトがどのくらいあるのか調べた。その結果、SGsに多く局在するmRNAは、SGsに取り込まれるRNA結合タンパク質の結合サイトを多く有していることがわかった。また、SGsに多く局在するmRNAとSGsに局在しないmRNAで比較しても、多く局在するmRNAにはSGsのRBP結合サイトが有意に多いことが示された。さらに、PrLDsをもったタンパク質や神経変性疾患に関わるタンパク質の結合サイトも多く有していた。この結果から、SGsに多く局在するmRNAは、SGsに取り込まれるRNA結合タンパク質と結合し、それらと共にSGsに取り込まれる可能性が示唆された。
 本研究の結果、細胞内のmRNA分子全体のわずか10 %しかSGsに取り込まれていないことが明らかになり、また、SGsに50 %以上mRNAが取り込まれた遺伝子は、僅かに185遺伝子しかなかった。これまで、SGsの構成分子の解析はタンパク質に着目したものが多く、SGsに取り込まれるRNAについて、ほとんど報告がなかったため、この結果は非常に興味深いものである。この取り込まれた185遺伝子について解析を行うことで、SGsの有する生物学的な機能・意義について新たな知見を得ることが出来るかもしれない。今後は、SGsとシグナル伝達分子との関連についてもより詳細に調べていく必要があると考えられる。

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