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PubMedID 29567714
Title Lymph node blood vessels provide exit routes for metastatic tumor cell dissemination in mice.
Journal Science (New York, N.Y.) 2018 03;359(6382):1408-1411.
Author Brown M,Assen FP,Leithner A,Abe J,Schachner H,Asfour G,Bago-Horvath Z,Stein JV,Uhrin P,Sixt M,Kerjaschki D
  • マウスにおいてリンパ節転移した腫瘍細胞は、リンパ節内の血管からリンパ節を出て、遠隔臓器に病巣を形成する
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/04/09

私達の研究室の抄読会で勉強した論文を紹介させていただきます。

がん細胞は転移する際に、まず原発の組織から遊離してリンパ管へ侵入し、センチネル(見張り)リンパ節へ到達します。
その後、さらに血流へと侵入し遠隔組織へと転移しますが、この血流への侵入過程はこれまで、
センチネルリンパ節からさらにリンパ管を伝ってさらに遠位のリンパ節を経由し、胸管などを経由して鎖骨下静脈と合流するものと考えられていました。
この論文とさらに同じ号に連報で載った論文では、従来の説を覆し、センチネルリンパ節内の血管からリンパ節を出て遠隔組織へと転移することを示しました。

まず筆者たちは、膝窩リンパ節にマウス乳癌細胞である4T1細胞を微量注入し、経時的にリンパ節を回収して組織染色を行い、癌細胞の局在を観察しました。
注入した直後では注入部位である被膜下に留まっていましたが、注入一日後よりリンパ節の実質に浸潤し、増殖しながらリンパ節の中心部へと進展していました。
興味深いことに、注入後2日目までに「侵入」マーカーであるCD14の発現が上昇しており、3日目では実質への侵入が完了した癌細胞では発現が低下し、
侵入が完了していない被膜周辺の癌細胞は発現が高いままでした。被膜下には血管が存在しないため、癌細胞が生存するためにリンパ節実質へと侵入していく必要があるためと推測されました。
さらに詳細に観察すると、注入後2日目には癌細胞はすでにリンパ節実質の血管の近くに局在し、内皮細胞と接触している細胞を認め、3日後には血管を取り囲み、血管内への侵入も認めました。

また、ルシフェラーゼを発現した4T1細胞を用いて膝窩リンパ節に微量注入したところ、少なくとも注入11日後には肺への遠隔転移を認めました。
次にリンパ節から血管への侵入と遠隔転移の関係を調べるために、血管への侵入が完了していない注入後2日目と血管への侵入が完了した注入後3日目に膝窩リンパ節を郭清して11日後に観察したところ、
注入後2日目で郭清した群では肺に遠隔転移を認めず、注入後3日目で郭清した群では1/3の個体で遠隔転移を認めました。
さらに、膝窩リンパ節の上位リンパ節である内側腸骨リンパ節を調べてみると、このリンパ節に癌細胞が定着し始めるのは注入28日後であり、肺への転移よりも後という結果でした。
リンパ管伝いによる転移の可能性をさらに検討するために、膝窩リンパ節の遠位のリンパ管を結紮して同様に4T1細胞を膝窩リンパ節に注入したところ、結紮しない場合と同様な肺への転移を認めました。

これらの結果はマウス大腸癌細胞株CT26を用いても同様であり、少なくともマウスを使った実験系では、癌細胞はリンパ節内の血管からリンパ節を出て、遠隔臓器に病巣を形成することが明らかになりました。
筆者らも述べているように、ヒトでも同様の結果なのかどうかはこれからの研究が大事になってくるかとは思いますが、リンパ行性転移と考えられていたものが、リンパ節を伝って中枢へと移動するより以前に
血行性に転移している可能性を示すもので、非常に興味深い結果でした。転移を防ぐためには、原発巣が所属するリンパ節の段階で何らかの対処をすることが大事なのかもしれません。
リンパ節郭清の考え方にも影響を与えるように思います。

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