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PubMedID 29551266
Title Multiplexed Proteome Dynamics Profiling Reveals Mechanisms Controlling Protein Homeostasis.
Journal Cell 2018 Mar;173(1):260-274.e25.
Author Savitski MM,Zinn N,Faelth-Savitski M,Poeckel D,Gade S,Becher I,Muelbaier M,Wagner AJ,Strohmer K,Werner T,Melchert S,Petretich M,Rutkowska A,Vappiani J,Franken H,Steidel M,Sweetman GM,Gilan O,Lam EYN,Dawson MA,Prinjha RK,Grandi P,Bergamini G,Bantscheff M
  • mPDP法によるタンパク質恒常性制御メカニズムの解明
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/04/28

タンパク質の恒常性は合成と分解のバランスで保たれています。近年、小分子により特定のタンパク質を分解に導くこと戦略が発展してきており、疾患を治療する有望なツールとなることが期待されています。
小分子によるタンパク質の分解は、シャペロンとの結合を阻害することで誘導されるものや、結合することで標的タンパク質の構造を不安定化させるもの、プロテアソームによる分解を直接誘導するものなどが知られています。
そして小分子を薬剤として用いるためには、小分子が標的とするタンパク質を"Off-Target"な標的も含めて決定することが求められていました。
本論文では、筆者らがmPDP(multiplexed proteome dynamics profiling)法と名付けた方法を用いて、JQ1-PROTAC(Proteolysis Targeting Chimera)、SERMs (Selevtive Estrogen Receptor Modulators)そしてHSP90阻害剤処理時のプロテオームの変化を解析しております。

mPDPの実態はdynamic SILACとTMT labelingを組み合わせたものであり、薬剤処理と同時に安定同位体標識培地に切り替えることで新規に合成されたタンパク質と既に合成されて成熟したタンパク質を区別し、
薬剤処理群の違いをTMTラベルで区別しています。

筆者らはまず、mPDP法をJQ1-PROTAC処理時のプロテオームの変化の解析に適用しました。
JQ1は近年注目を集めている抗がん剤であり、ブロモドメインタンパク質を阻害し(BRD inhibitor)転写を抑制することがその薬理作用と考えられています。
JQ1をPROTACと融合するとBRD2, 3, 4を始めとした標的タンパク質をすみやかに分解に導くことが期待され、実際にmPDP法でも確かめることができました。
また同時に、JQ1-PROTACを用いるとタンパク質の合成も阻害されることも同時に明らかとなり、
これはmRNAの核外輸送を制御する複合体の構成要素であるFYTTD1をOff-targetな標的として分解してしまうことによることも明らかになりました。

次にmPDP法をSERMs処理時のプロテオームの変化の解析に適用しています。
この解析では、Raloxifene(SERMsの1種)処理時にコレステロール恒常性の制御因子であるTMEM97の分解をOff-targetな標的として誘導していることが明らかとなり、
Raloxifene特異的な副作用の存在が示唆されました。

筆者らはさらに、タンパク質の安定性には分子シャペロンが関与していることが知られているため、HSP90阻害による変化に対しても同様の解析を行いました。
これにより、タンパク質合成時にのみHSP90を必要とするタンパク質と、成熟後もHSP90に安定性を依存しているタンパク質について網羅的なデータを得ています。

手法としてはdynamic SILACとTMTラベリングを組み合わせただけなので、そこまで新規なものではないように思いましたが、
薬剤のタンパク質量レベルに変動を与えるOff-target効果を解明することができるということで、薬剤の副効果・副作用のメカニズムを突き詰めることができるという点で非常に興味深く思いました。

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