数理解析

PubMedID 29625050
Title Oncogenic Signaling Pathways in The Cancer Genome Atlas.
Journal Cell 2018 Apr;173(2):321-337.e10.
Author Sanchez-Vega F,Mina M,Armenia J,Chatila WK,Luna A,La KC,Dimitriadoy S,Liu DL,Kantheti HS,Saghafinia S,Chakravarty D,Daian F,Gao Q,Bailey MH,Liang WW,Foltz SM,Shmulevich I,Ding L,Heins Z,Ochoa A,Gross B,Gao J,Zhang H,Kundra R,Kandoth C,Bahceci I,Dervishi L,Dogrusoz U,Zhou W,Shen H,Laird PW,Way GP,Greene CS,Liang H,Xiao Y,Wang C,Iavarone A,Berger AH,Bivona TG,Lazar AJ,Hammer GD,Giordano T,Kwong LN,McArthur G,Huang C,Tward AD,Frederick MJ,McCormick F,Meyerson M, ,
  • The Pan-Cancer Atlasの公開とがんシグナル経路についての解析
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/05/04

TCGA(The Cancer Genome Atlas)は2005年より米国国立がん研究所(NIH)と米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が主体となって進めているプロジェクトで、さまざまながん種についてゲノム、メチル化、RNAおよびタンパク質の発現、イメージング、臨床情報などのデータを集約し公開しています。
今回このプロジェクトが一段落し、The Pan-Cancer Atlasとして公開されると共に様々な解析が行われ、26の論文がCell,Cancer Cell,Cell Systems,Cell Reports,Immunityで発表されています。
がんの種類は10のまれながん種を含む33種、患者検体は約11,000人にもおよび、総計2.5petabyteのデータが集められました。
本論文は26論文のうちの1つで、33のがん種9125サンプルの変異、コピー数変化、mRNA発現、遺伝子融合、DNAメチル化のデータを用いて、10のシグナル経路(cell-cycle,Hippo,Myc,Notch,Nrf2,PI3K/Akt,RTK-Ras,TGFbeta signaling,p53,beta-catenin/Wnt)の変異のパターンについて解析を行っています。
RTK-Rasシグナルは全がん種を通して変異頻度の中央値が最も高いシグナル(サンプルの46%)であることや、cell-cycle経路の変異は多くのがん種で共通している一方でぶどう膜メラノーマや胸腺腫、精巣がん、AMLなど特定のがん種ではほとんど変異がないなど、各シグナル経路の変異と各がん種の傾向が詳細に記載されています。

変異が相互排他的あるいは同時に起こりうる経路があるかどうかについても調べており、p53、cell-cycle、RAS、PI3K経路は相互排他的であり、一方Hippo、RTK、Wnt経路は同時に変異が入ることが多いことがわかりました。
また、RTK経路が活性化するような変異はRASまたはPI3K経路を活性化させるような変異と相互排他的であり、これはRTK経路がRAS経路、PI3K経路を活性化することができるためさらに変異が入る必要がないことと一致しているようでした。
その他にも、FGFRとPI3K経路の変異、あるいはp53とcell-cycle経路が同時に起こりやすいなど、多くの組み合わせが挙げられています。
筆者らは分子標的薬の標準治療あるいは研究段階での治療の標的となる変異について各シグナル経路・がん種ごとに整理しており、約51%の腫瘍が治療標的となり得る変異を持つことがわかりました。
さらに約30%の腫瘍は標的となり得る変異を2つ以上持つことがわかり、これらの腫瘍では薬剤を組み合わせて使用できる可能性が示唆されました。
どの腫瘍がどのシグナルに主に依存しており、どのような薬剤を中心に開発していけばいいのかが一目瞭然となっています。

TCGAプロジェクトは後継のプロジェクトに受け継がれ、さらに多彩ながん種や治療後のサンプルなどについて同様のデータ取得が進むようです。
得られたデータは疑いようなくがん研究のさまざまな局面で有効利用されるでしょう。
いつもながら、米国のプロジェクト研究に圧倒されてしまいます。

返信(0) | 返信する