分子細胞生物学

PubMedID 29779948
Title The Eukaryotic Proteome Is Shaped by E3 Ubiquitin Ligases Targeting C-Terminal Degrons.
Journal Cell 2018 May;():.
Author Koren I,Timms RT,Kula T,Xu Q,Li MZ,Elledge SJ
  • C末端デグロンを標的とするE3ユビキチンリガーゼが真核生物プロテオームを形作る
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/06/13

タンパク質のアミノ末端の配列はタンパク質の寿命を規定しており、N末端則と呼ばれています。
これはUBRファミリーを始めとしたE3ユビキチンリガーゼが、アミノ末端の特定の配列を認識してユビキチン化しプロテアソームによる分解を導くためであり、認識配列を持つタンパク質の寿命は短くなります。
本論文ではカルボキシル末端の特定の配列がタンパク質の寿命を規定し、degronとして機能することを示しこれをDesCEND(destruction via C-end degron)と名付けました。
また筆者らは、degronを認識してユビキチンを付加するE3ユビキチンリガーゼを同定しています。

筆者らはまず、過去に開発したGPS(global protein stability profiling)法を90アミノ酸残基からなるペプチドへと応用し不安定なペプチド配列を検索しました。
GPS法は、2つの蛍光タンパク質(DsRedとGFP)をIRESで繋いでコードするレンチウイルスライブラリーに基づいており、原法ではGFPにヒトORFを網羅的に融合しライブラリーを作製します。
レンチウイルスを細胞に感染させて経時的に回収し、フローサイトメトリーによってGFPとDsRedの蛍光の比を取ること(DsRedを内部標準として用いています)で、組み込まれたORF由来タンパク質の安定性を測ることができます。
本論文ではではヒトORFの代わりに45アミノ酸ずつ重複するようなヒトORF由来の90アミノ酸ペプチドを組み込んでペプチドライブラリーを作製し、各ペプチドについての安定性の情報を得ました。

次にペプチドの安定性を制御するE3ユビキチンリガーゼの決定を目指しましたが、解析を簡略化するためにCullin型のユビキチンリガーゼ(CRL)に対象を絞りました。
まずCRL阻害剤であるMLN4924で安定化するペプチド群を決定し、ドミナントネガティブなCullin変異体を用いることでこのペプチド群を制御するE3はCul2とCul5であることがわかりました。
さらにCRL2とCRL5で用いられる基質認識サブユニットを同定するためにCRISPR/Cas9 screeningを行い、KLHDC3、FEM1A、FEM1B、FEM1C、APPBP2であることがわかりました。
KLHDC3で制御されるペプチド群を調べてみると、C末端がグリシン(G)であることがわかりました。これは合成ペプチドだけではなく、グリシンで終わる全長のタンパク質でも同様であることがわかりました。
ペプチドに変異を導入して詳細に解析すると、KLHDC3はC末端(-1)がGで、かつC末端から-2の位置にK、R、Qのペプチドを好むことがわかりました。
さらにKLHDC3の近縁のCRL2アダプターについて調べてみると、KLHDC2がGG、KLHDC10がWG、PG、AGを好むことがわかりました。
興味深いことに、真核細胞のタンパク質はC末端がGであるものが非常に少なく、CRL2KLHDC系が機能することによって失われていった可能性を示唆していました。

さらにC末端に焦点を絞るため、ヒトORFのC末から23アミノ酸のペプチドライブラリーを作製し同様の解析を行った結果、新たなC末端degronと基質認識サブユニットの関係を同定することができ、
FEM1A-Cは-R、APPBP2はRxxG、CRL4サブユニットDCAF12はEE、TRPC4APはRxx、さらにCRL以外のE3ユビキチンリガーゼによって-A、Ax、Vxがdegronとして機能することを示しています。

N末端の特定の配列がdegronとして機能してそれを認識するユビキチンリガーゼが存在し、C末端についても同様の機構が存在する―明らかにされてしまうと非常にすっきりとしたお話なのですが、同定し検証する実験を組み、ある意味力技のこの実験をやりきることに凄みを感じます。
筆者らも述べていますが、タンパク質が切断を受けた時に新たに生じるC末端もこの分解系の影響を受けているでしょうし、何らかの翻訳後修飾によって分解を免れる/促進するケースもあるように思います。シグナル伝達系の一部に用いられている可能性もあるかもしれません。
個人的には、ユビキチン様の翻訳後修飾因子の多くが-G(特に-GG)で終わることが多いのでCRL2KLHDC複合体との関係について興味深く思いました。標的に共有結合している場合は露出していないので安定なのだろうと思うのですが、遊離している場合はこの系の標的となるのでしょうか。さらなる研究の進展が楽しみです。

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