分子細胞生物学

PubMedID 27555662
Title Negative regulation of NF-κB p65 activity by serine 536 phosphorylation.
Journal Science signaling 2016 Aug;9(442):ra85.
Author Pradère JP,Hernandez C,Koppe C,Friedman RA,Luedde T,Schwabe RF
  • Negative regulation of NF-κB p65 activity by serine 536 phosphorylation.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 関崇生
  • 投稿日 2017/06/29

転写因子NF-kBは、RelA (p65)、RelB、c-Rel、p50、p52から構成される転写因子郡として知られている。NF-kBは通常ホモまたはヘテロダイマーを形成し、IkBと言われるNF-kBの抑制分子によって細胞質に留められ、活性を抑制されている。古典的NF-kB活性化経路においては、TNFaなどのサイトカイン刺激によりIKKa/b/NEMO複合体が活性化し、IkBaが分解されることによって、RelA/p50ヘテロダイマーが開放され核移行し、サイトカイン産生、細胞増殖に関与する標的遺伝子の発現を促進する。一方で、非古典的NF-kB活性化経路ではLymphotoxin a1b2等の刺激により、NIKがcIAP1/2、TRAF2、TRAF3による恒常的な分解から開放され、蓄積することによりIKKaが活性化される。続いて、活性化したIKKaによってp100がp52へとプロセシングされることによってRelB/p52ヘテロダイマーが核移行し、リンパ組織形成、維持に関与する標的遺伝子の発現を促進する。
これまでの研究で、NF-kBの翻訳後修飾、特にRelAの翻訳後修飾は転写活性のfine-tuningをするために重要な役割をしていることが示されている。RelAのリン酸化については解析が進んでおり、多数のキナーゼ、リン酸化部位が同定されている。ほとんどのリン酸化部位は、N末端領域のRel homology domain (RHD)およびC末端領域のTransactivation domain (TAD)にあり、リン酸化の部位、標的遺伝子、および刺激に依存して、転写レベルの増加または減少のいずれかをもたらす。RelAのSer536はIKK複合体によってリン酸化され、RelAの核移行と活性化に必要であると考えられている。また、このリン酸化部位は多くの生物種で保存されていることが知られている。しかし、多くの研究者たちがSer536について転写活性を増強すると報告する一方で、抑制的に働くと報告しているグループもある (T Okazaki, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, I. Mattioli, et al., J. Immunol., 2004)。筆者らは、相反するSer536の機能を決定するために、ノックインマウスを作製してこの問題にアプローチした。
まず初めに、Ser536のmurine homologであるSer534をアラニンに置換したS534Aノックインマウスを作製した。このマウスはメンデルの法則で産まれ、RelAノックアウトマウスで観察される肝臓のアポトーシスなどは見られなかった。さらに、胎児線維芽細胞 (MEFs) を樹立し、RelAの核移行と標的遺伝子の発現を解析したが、野生型との顕著な差は見られなかった。そこで、次にin vivoでの解析を行った。マウスに低濃度のLPS、TNFa刺激または放射線照射を行い、肝臓または脾臓で標的遺伝子の発現を比較すると、S534AノックインマウスでNF-kB依存性標的遺伝子の発現が有意に亢進していた。また、高濃度LPSショックによる死亡率が有意に上昇することも明らかとなった。ここまでのデータから、in vivoにおけるSer534のリン酸化はRelAの活性を負に制御することが示された。最後に、どのようにしてSer534のリン酸化がRelAの活性を負に制御しているのかメカニズムを解析した。Ser536のリン酸化はRelAタンパク質の安定性に関与することが報告されている (T. Lawrence, et al., Nature, 2005, Y. Wang, et al, J. Immunol., 2014)。そこで、TNFaまたはIL-1b刺激後のRelAの安定性を比較すると、S534A変異体で有意にタンパク質の安定性が上昇していた。また、この変異体は野生型と比較してDNA結合能が亢進していることも明らかとなった。まとめると、in vivoにおいてSer534のリン酸化はRelAの核移行に必須ではなく、さらに生体内の過剰な炎症反応を抑えるためにRelAの安定性の低下を介してNF-Bを抑制していることが示唆された。
コメント
長らくRelA Ser536のリン酸化はRelAの転写活性を増強すると考えられてきたが、本論文ではこの仮説とは全く異なる転写活性を抑制する機能であることが示された。この事実から、これまでに考えられてきたNF-kB活性化のメカニズムを考え直す必要がある。2008年にSankar GhoshらのグループがSer276の変異体を発現するノックインマウスを作製し、胎生致死であることを報告している。従って、RelAのリン酸化はSer276が重要であることが予想される。本論文を通して、改めてマウスを作製し解析することの重要性を感じた。

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