分子細胞生物学

PubMedID 28514450
Title Evolutionary enhancement of Zika virus infectivity in Aedes aegypti mosquitoes.
Journal Nature 2017 05;545(7655):482-486.
Author Liu Y,Liu J,Du S,Shan C,Nie K,Zhang R,Li XF,Zhang R,Wang T,Qin CF,Wang P,Shi PY,Cheng G
  • Evolutionary enhancement of Zika virus infectivity in Aedes aegypti mosquitoes.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 藤波 祐丞
  • 投稿日 2018/07/09

ジカウイルス(ZIKV)は、ウエストナイルウイルスや黄熱病ウイルス、デングウイルス と同じく、フラビウイルス科フラビウイルス属の一種RNAウイルスである。1947年にウガンダで初めて単離されて以来、このウイルスはアフリカでは野生動物に発症する風土病としては知られていたものの、2013年から2014年にかけてフランス領ポリネシアで、そして2015年から2016年にかけて南米において爆発的な流行が発生するまでは、世間にあまり知られていないウイルスであった。
 ジカウイルスは系統発生解析によるとアフリカの系統とアジア系統の2系統に分かれるとされ、この内アジアの系統が近年の南米での流行の原因となっている。しかしながら、2013年以降になぜ急速かつ爆発的にアジアから南米へと拡散したのか、根本的なメカニズムは未だ解明されていない。
 以前筆者らは数種のフラビウイルスにおいて、宿主循環血中の非構造タンパク質Nonstructural protein 1(NS1)とウイルス粒子を共に摂取することで、蚊がウイルスに罹患しやすくなる、即ち、ウイルスが蚊の体内で増幅しやすくなると明らかにしていた。この度のZIKVの研究でも同様の結果を示しており、NS1と蚊のウイルス獲得の容易化との関連性が示唆された。
 筆者らはさらに、この結果が宿主細胞内から細胞外へのNS1の分泌性の上昇によってもたらされるのではないかという仮説を立証している。また、この分泌性の上昇はNS1タンパク質中のたった一つのアミノ酸変異、188番目のアラニン残基からバリンへの変異によるものであることを立証した上で、2012年以前に単離されたアジア系統のジカウイルス株には変異がなく、反対に2013年以降のものでは全てこのアミノ酸の変異があることも明らかにしている。また、前述のアフリカの系統株は古くから局地的な家畜伝染病の原因となっており、このアフリカでの流行でも全ての単離株にアラニンからバリンへの変異があることが明らかになっている。
 以上から、非構造タンパク質中のたった一つのアミノ酸変異がウイルスの長期生存と感染流行の糧となっていると筆者らは述べている。

返信(0) | 返信する