分子細胞生物学 | 数理解析

PubMedID 28867286
Title Load Adaptation of Lamellipodial Actin Networks.
Journal Cell 2017 Sep;171(1):188-200.e16.
Author Mueller J,Szep G,Nemethova M,de Vries I,Lieber AD,Winkler C,Kruse K,Small JV,Schmeiser C,Keren K,Hauschild R,Sixt M
  • Load Adaptation of Lamellipodial Actin Networks
  • Posted by 山口大学大学院 創生科学研究科(理学部) 岩楯 好昭
  • 投稿日 2018/08/20

 エンドサイトーシスや小胞輸送から細胞運動に至るまで、アクトミオシン細胞骨格は真核細胞のほとんどの力学的応答を媒介する。 アクチンフィラメントは、重合によって負荷に対して伸長し、そのネットワークを拡張させる。伸長は様々なタンパク質によって媒介されるが、formin による真っ直ぐな伸長の誘導と、Arp2/3によるフィラメントの枝分かれの誘導が知られている。
 力学的な負荷が増加するとアクチンネットワークが再構成され、密度が上がることが in vitro で示され、また、in vivo でも、線維芽細胞や上皮細胞で細胞膜張力の上昇が Arp2/3 による枝分かれ構造を増加させることが示されている。本論文では、アクチンネットワークが膜張力の変化にどのように対応するか、光学顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせて、定量的、具体的に検討している。さらに、膜張力とアクチン重合の関係を数理モデルで表現して、実験結果と照らし合わせることにより、相互関係のメカニズムを推定している。

・実験
 魚類表皮細胞ケラトサイト (keratocytes) は、遊走中形をほぼ一定に保つ広い葉状仮足を持つため、アクチン重合の良い実験材料となる。遊走中のケラトサイトの一部を吸引ピペットで吸引し、膜張力を増大させると、アクチン密度が上昇しかつ、先導端の伸長方向と垂直に近いフィラメントの割合が増えた。また、遊走中のケラトサイトの基質接着領域の一部を脱着させ 、膜張力を低下させると、アクチン密度が低下しかつ、先導端の伸長方向と平行に近いフィラメントの割合が増えた。

・数理モデル
 膜張力が減少すると、先導端の伸長方向と異なる角度で伸長するフィラメントは膜に到達する前に長い距離を移動しなければならないため、 膜近傍に存在する重合因子(VASPおよびformin)と接触する確率よりも、キャッピングタンパク質と接触する確率が上がる、という条件でモデルを作成した。

 上記、数理モデルのシミュレーション結果から得られる、アクチン密度、細胞面積、先導たんの伸長速度の時間変化の相関は、実際の細胞のそれらの時間変化の相関と一致した。以上より、筆者らは、細胞の膜張力がアクチンネットワークの構造変化を誘導すると結論づけている。本研究は in vivo で、力学的なシグナルを介したアクチンネットワークの振る舞いを定量的に示しており、かつ、数理モデルと組み合わせることで、そのメカニズムにも迫っていて非常に興味深い。

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