分子細胞生物学

PubMedID 29636389
Title The nuclear translocation of the kinases p38 and JNK promotes inflammation-induced cancer.
Journal Science signaling 2018 Apr;11(525):.
Author Maik-Rachline G,Zehorai E,Hanoch T,Blenis J,Seger R
  • The nuclear translocation of the kinases p38 and JNK promotes inflammation-induced cancer.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 小森 満美子
  • 投稿日 2018/09/11

MAPキナーゼ経路はMAPKKK、MAPKK、MAPKの3層構造になっており、増殖因子や環境しトレス刺激に応じて様々な生理学的反応を引き起こす。これらの生理学的反応の開始や制御に必要なのが、MAPKsの刺激に応じた核移行である。MAPKの核移行は、遺伝子発現や、細胞動態の誘導または制御に影響を及ぼすと考えられており、シグナル伝達において重要なプロセスとされている。しかし重要なプロセスでありながら、その分子メカニズムは不明な点が多い。
これまで核移行は、シグナル分子の核局在シグナルという配列にインポーチンα/βが結合することによって起こるものと考えられていた。しかし、筆者らは先行研究において多くのシグナル分子は、これとは異なる方法で輸送されていることを明らかにした。例えば今回のメインであるERK/JNK/p38について言えば、ERKは核移行領域にインポーチン7が結合して核移行が起こり、p38/JNKはインポーチン7または9と、インポーチン3が核移行領域に結合して核移行を起こす。
筆者らは先行研究において、ERKのNTSに結合するEPEペプチドを作製し、癌の成長を抑制する効果があることを明らかにした。これによりEPEペプチドの癌治療における有効性を証明することができた。本論文において、筆者らはこのEPEペプチドの結果を基に、p38/JNKのNTSに結合するペプチドを作製し、同様に癌の治療法として用いることができるのかどうかについて調べることにした。その結果、PERYペプチドはp38およびJNKとインポーチンの相互作用を特異的にブロックすることで核移行を抑制し、p38およびJNKの核内基質のリン酸化を阻害することを明らかにした。この効果により数種類の癌細胞において、細胞増殖を減弱させることも明らかになった。またp38経路が炎症を制御していることが報告されていることから、PERYのDSS依存的な大腸炎への効果、また慢性炎症性腸疾患による大腸癌への効果を調べたところ、顕著に炎症を抑制する効果があることが分かった。以上の結果より、p38およびJNKの核移行を阻害することは様々な癌や炎症による疾患の治療において新たなターゲットとする有効性を示すことができた。
 p38MAPキナーゼ経路は炎症を制御しており、この機構の破綻による慢性炎症は様々な炎症性疾患の原因である。本論文において、PERYペプチドはp38/JNKの核移行を阻害することにより、それらの基質へのリン酸化が減弱することが明らかにされている。p38キナーゼの基質であるMK2は抗炎症剤のターゲットとして近年重要性が報告されている。しかし炎症が起こるメカニズムはいまだに不明な点が多い。今後のさらなる分子機構の解明と、PERYの炎症性疾患への効果の解析結果が楽しみです。

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