分子細胞生物学 | 数理解析

PubMedID 28983097
Title Tyrosine dephosphorylated cortactin downregulates contractility at the epithelial zonula adherens through SRGAP1.
Journal Nature communications 2017 10;8(1):790.
Author Liang X,Budnar S,Gupta S,Verma S,Han SP,Hill MM,Daly RJ,Parton RG,Hamilton NA,Gomez GA,Yap AS
  • Tyrosine dephosphorylated cortactin downregulates contractility at the epithelial zonula adherens through SRGAP1.
  • Posted by 奈良先端科学技術大学院大学 西村珠子、末次志郎
  • 投稿日 2018/09/22

上皮細胞間の接着帯(zonula adherens)は収縮性を有しており、それにより細胞間接着の形成、上皮細胞層の協調性、および形態形成が促されることが知られている。これまでに接着帯の収縮性を促進する機構については多くの研究がなされてきたが、接着帯の収縮性を抑制する機構やその生理的意義については殆ど未解明であった。
著者らは、この接着帯の収縮性の抑制が、細胞間接着に分布するリン酸化アダプタータンパク質cortactin、および低分子Gタンパク質RhoAを不活性化するSRGAP1を介して行われることを見出した。チロシン脱リン酸化を模した変異を導入したcortactinを上皮細胞に発現すると、接着帯におけるRhoAの活性化抑制、およびRhoAの下流分子ROCKおよびMyosin-IIAの分布が抑制されることで、接着帯の収縮性が抑制された。この現象は、SRGAP1がチロシン脱リン酸化されたcortactinに強く相互作用して細胞間接着に分布し、RhoAを不活性化することにより引き起こされることが分かった。
著者らは以前に、接着帯のRhoAが、下流のROCK-Myosin-IIAの活性化を介して、Rnd3とその下流分子p190B RhoGAPの接着帯への分布を抑制することで、RhoAをフィードバック的に活性化するという数理モデルを報告した。今回の実験で、SRGAP1がRhoAのフィードバックループに影響する可能性が考えられたため、SRGAP1のデータを追加して、これらの分子の接着帯分布に関する数理モデルを解析した。すなわち、全分子が活性化していると仮定し、かつSRGAP1の濃度を直線的に変化させた際の、各分子の細胞間接着における濃度をシミュレーションした。その結果、SRGAP1濃度が低い場合には接着帯の活性化RhoAは減少するもののフィードバック系は完全には抑制されておらず、SRGAP1濃度が高い場合には活性化RhoAの接着帯への分布およびフィードバック系が完全に抑制されることが示唆された。
一方、HGFは、細胞間接着を弛緩させかつ細胞移動を促進することで、形態形成を制御する生理活性分子である。HGFを上皮細胞層に作用させると、接着帯におけるRhoA活性化とROCKおよびMyosin-IIAの分布が抑制され、接着帯の収縮性が低下した。この時、細胞間接着におけるcortactinのチロシンリン酸化が低下し、SRGAP1の分布が増加していた。さらに、HGFにより促進される上皮細胞層の協調的な移動には、SRGAP1が関与した。
これらの結果から、cortactinは接着帯でチロシン脱リン酸化されてSRGAP1をリクルートし、RhoA-ROCK-Myosin-IIAシグナル系を抑制することにより、接着帯の収縮性を低下させ、HGFにより引き起こされる形態形成を制御することが示唆された。

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