分子細胞生物学

PubMedID 29628143
Title Stress Granule Assembly Disrupts Nucleocytoplasmic Transport.
Journal Cell 2018 May;173(4):958-971.e17.
Author Zhang K,Daigle JG,Cunningham KM,Coyne AN,Ruan K,Grima JC,Bowen KE,Wadhwa H,Yang P,Rigo F,Taylor JP,Gitler AD,Rothstein JD,Lloyd TE
  • Stress Granule Assembly Disrupts Nucleocytoplasmic Transport.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 藤川 大地
  • 投稿日 2018/10/10

 ストレス顆粒(SGs)は、膜構造を持たない細胞質内構造体であり、mRNAやタンパク質によって構成される。SGsは細胞が特定のストレス刺激(oxidative, nutritional, genotoxic, proteotoxic, osmotic stress, UV irradiation and chemotherapeutic agents)に曝されたときに形成され、タンパク質の翻訳を停止し、異常タンパク質の蓄積を防ぐことで細胞のストレス防御機構として機能する。SGsは、神経変性疾患に関わるタンパク質を多く取り込んでおり、また、SGsの形成亢進やSGs分解機構の破綻が、異常なSGs様の凝集体を形成することが分かっており、Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS) やFrontotemporal dementia (FTD)のような神経変性疾患に関係している。C9orf72遺伝子は、ALS / FTDの原因遺伝子として同定され、この遺伝子の非翻訳領域(イントロン1)内にある6塩基 (GGGGCC)の異常伸長による繰り返し配列が孤発性ALS / FTD患者の8%以上、家族性ALS/FTD患者の40%以上に認められる。この異常伸長による病態の分子メカニズムには大きく2つ想定されている。① リピート配列が転写もしくはスプライシングの異常をひき起こし,C9orf72のハプロ不全を引き起こす。C9orf72の機能として、細胞内・外小胞輸送の制御に寄与していることが近年報告されている。② 異常に延長したリピートをもつRNAにRNA結合タンパク質が選択的かつ大量に吸着されることで,RNA結合タンパク質の機能不全を来す (e.g. RanGAP1)。 また、異常に伸長したリピート配列をもつmRNAからの non-ATG から始まる3 つのreading frame における翻訳(Repeat Associated Non-ATG Translation; RAN Translation)によって,poly-(Gly-Ala), poly-(Gly-Pro), poly-(Gly-Arg)といったジペプチドリピート (DPR) タンパク質が産生される。DPR 蛋白は、封入体に局在していることが報告されており、細胞毒性を示す。このC9orf72変異によるALS/FTD (C9-ALS/FTD) をはじめ、ハンチントン病やアルツハイマー病において、核細胞質間輸送障害が共通して観察される現象である。しかし、その分子メカニズムは明らかになっていない。興味深いことに、DPR タンパク質は分子の流動性の低いSGs形成を誘導することが報告されており、また、SGsには核細胞質間輸送因子であるImportin αやβが取り込まれることも報告されている。以上の点から、『C9-ALS/FTDにおける核細胞質間輸送障害はDPR タンパク質によるSGs形成によって引き起こされている』という仮説のもと、筆者らは検証をおこなった。
 まず、SGs形成誘導刺激によって、核細胞質間輸送が妨げられるのか検証した。その結果、SGs形成を誘導するAs / Sorbitol 刺激によって、核細胞質間輸送のバランスが崩れたことが示された。どのようなメカニズムが関わっているのか調べるために、次に核細胞質間輸送因子を調べた。筆者らの先行研究で、C9-ALS患者由来 iPS 神経細胞において、本来核に局在するRan / TDP43のミス局在が観察されている。そこで、複数の細胞種・異なるSGs形成刺激でRanの局在を観察したところ、RanがSGsに取り込まれることが示された。しかし、As刺激において、SGsに取り込まれたRanの量がわずか2.6 %であり、さらにRanの核細胞質間の局在変化はほぼ観察されなかった。RanのSGsへの移行だけでは核細胞質間輸送障害を説明することは出来ない。他の核細胞質間輸送因子についても観察した結果、他の核細胞質間輸送因子・核膜孔複合体もSGsに取り込まれることが示された。また、Importin β2 はcargo-binding domainを介して、SGsに取り込まれることが示された。次に、SGs形成によって核細胞質間輸送のバランスが崩れるのか調べた。SGs形成誘導刺激後、SGs形成阻害剤 (GSK / ISRIB) を処理すると、核細胞質間輸送の破綻が回復した。さらに、SGs形成不全のG3BP1/2 DKO細胞においても、核細胞質間輸送破綻は観察されなかった。これらの結果から、SGsは核細胞質間輸送因子を顆粒内に取り込むことによって、輸送機構の破綻を引き起こすことが示された。疾患との関係を調べるために、C9-ALSで観察されるDPRタンパク質を用いて、核細胞質間輸送の破綻を調べた。DPRタンパク質 および 細胞質局在を示す切断型TDP-43を細胞に発現させたところ、SGs形成が観察され、核細胞質間輸送の破綻が観察された。SGs形成を阻害すると、核細胞質間輸送障害の回復が観察されたことから、DPRタンパク質 / 細胞質TDP-43による核細胞質間輸送障害はSGs形成に起因することが示された。最後に、C9-ALSモデルでの実験を行った。C9-ALS患者由来 iPS 神経細胞での核細胞質間輸送障害がSGs形成阻害によって回復するのか調べた結果、SGs形成阻害によって、核細胞質間輸送障害が回復した。C9-ALSハエモデルにおいても、SGs形成阻害剤を与えた結果、核細胞質間輸送障害が回復し神経変性を抑制したことが示された。
 本研究の結果、Ran, Importin, Exportin およびNupsを含む核細胞質間輸送因子が SGsに取り込まれることによって、核細胞質間輸送機構が妨げられることが示された。この機構は、ストレス環境下で細胞がタンパク質の翻訳を停止させるためのメカニズムなのかもしれない。実際に、ストレス環境下では、大抵のmRNAが核外輸送されないことが知られている。一時的な核細胞質間輸送の阻害はストレスからの防御に寄与するが、慢性的な核細胞質間輸送の阻害は細胞にとって有害であることが示唆される。本研究では、C9-ALS モデル (ハエ・患者由来iPS神経細胞)を用いることで、SGs形成と神経変性疾患の関係について迫っており、興味深い知見である。今後SGs形成をターゲットにすることで、ALS / FTDやハンチントン病、アルツハイマー病でみられる核細胞質間輸送障害の回復・治療に繋がることが期待される。

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