分子細胞生物学

PubMedID 30135585
Title Parkin and PINK1 mitigate STING-induced inflammation.
Journal Nature 2018 Sep;561(7722):258-262.
Author Sliter DA,Martinez J,Hao L,Chen X,Sun N,Fischer TD,Burman JL,Li Y,Zhang Z,Narendra DP,Cai H,Borsche M,Klein C,Youle RJ
  • PARKINとPINK1はSTINGによって誘導される炎症を軽減する
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/10/26

パーキンソン病患者の血清中では炎症性サイトカインが上昇していることが知られていましたが、炎症が神経細胞死に寄与しているのか、あるいは神経細胞死の結果なのかについてはわかっていませんでした。また、PARKINとPINK1遺伝子の変異は早期発症のパーキンソン病を引き起こし、共に不良ミトコンドリアをマイトファジーによって除去する経路を担っていることが明らかにされていましたが、ノックアウトマウスではパーキンソン病に関連する表現型を示さないため、In vivoにおける検証が困難な状況でした。一方、ミトコンドリアストレスはダメージ関連分子パターン(DAMPs)を放出を介し自然免疫を活性化するため、マイトファジーはこの炎症を軽減する可能性が示唆されていました。
筆者たちは、Parkin、Pink1ノックアウトマウスにミトコンドリアストレスをかけると強い炎症性の表現型を示すことを明らかにしました。消耗運動を行わせることで急性のミトコンドリアストレスを、ミトコンドリアDNAに変異が蓄積するmutatorマウス(校正機能を欠失したmtDNAポリメラーゼ(PolG)を発現させたマウス)と掛け合わせることで慢性のミトコンドリアストレスをかけて実験を行っています。これらのストレスによって誘導された炎症反応や黒質ドーパミン産生ニューロンの脱落、運動障害は、細胞内DNAに応じてI型インターフェロン応答を誘導する中心分子であるSTINGの欠損によってキャンセルされたため、炎症がこれらの表現型を誘導していたものと思われました。PARKINに変異を持つヒトの血清でもサイトカインの上昇が観察されることから、ヒトにおいてもPARKINとPINK1はSTINGによって誘導される炎症を軽減するものと考えられました。

これまで、ヒトではPARKINの変異でパーキンソン病が引き起こされることが明らかとなっている一方、Parkinノックアウトマウスではパーキンソン病様の表現型を示さないことがパーキンソン病のメカニズムの解釈を難しくしていたように思います。近年PARKIN-PINK1系がマイトファジーを制御することが明らかになる一方で、マイトファジーと病気の症状を結びつける情報は限られていました。本論文は、ミトコンドリア恒常性の破綻に続く炎症反応が神経細胞の脱落といったパーキンソン病の症状に寄与していることを示すものであり、病態の理解を大きく前進させたものであるように思います。

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