分子細胞生物学

PubMedID 29976794
Title DNA-induced liquid phase condensation of cGAS activates innate immune signaling.
Journal Science (New York, N.Y.) 2018 08;361(6403):704-709.
Author Du M,Chen ZJ
  • DNAによるcGASの液相凝集は自然免疫シグナルを活性化する
  • Posted by 北海道大学 大学院医学研究院 生化学分野医化学教室 渡部 昌
  • 投稿日 2018/11/02

cGASはDNAと結合することで活性化し、cGAMPを生成してSTINGを介した自然免疫応答を誘導します。細胞質でcGASがDNAと結合するとfociを形成することが知られていましたが、その形成メカニズムや役割についてはあまりよくわかっていませんでした。

筆者らは、試験管内および細胞内でcGASはDNAと結合すると液体様の小滴を形成することを見出しました。cGASはN末とC末双方にDNA結合ドメインを持つことが知られています。この液滴の形成効率はcGASのN末を削ると低くなり、またDNAは長い方が高くなり、これに対応してcGAMP生成も同様の挙動を示しました。さらに、亜鉛イオンの存在により液滴形成とcGAMP生成効率が上昇することもわかりました。以上のことから筆者らは、DNA-cGAS結合による液相凝集がcGAMP生成、ひいては自然免疫シグナルを促進し、さらに亜鉛イオン量によって制御を受けている可能性があるとの主張をしています。

ここ最近流行の液-液相分離によるシグナルの制御についての話でした。液滴の形成とシグナルのセカンドメッセンジャーであるcGAMPの生成が一致した挙動を示しているので、筆者らの主張は説得力があるようにも思うのですが、液滴形成がcGAMP生成を促進する直接の証拠がかけているようにも思われました。液-液相分離の生化学反応におけるメリットは、反応の場が区画化されることによる局所的な濃度上昇で説明されているように思います。今回の論文では、DNAとcGASの結合が液滴形成の駆動力となっているので、活性化したcGASが集合するという点においては液滴の形成の有無によらず達成されているように思います。ただcGASが集合すること以上に反応の効率に影響を与えるのか、あるいはcGAMPの材料となるATP・GTPを効率よく取り込みやすい、など他の機構があるのかどうかが気になるところです。
また試験管内のデータでは、DNAとcGASを混合後にcGASのFRAPを行うと、混合30分後ではcGASの取り込みが活発でしたが、1時間、2時間後では動きがあまり変化がないという結果でした。一方細胞内ではDNA(ISD)をトランスフェクション後1時間以内ではFoci同士の融合が観測できているのですが、その先の時間でも動的な性質(つまり液滴としての性質)を維持しているかどうかについて記載がありません。同じく液-液相分離することが知られているRNA結合タンパク質FUSでは、濃縮された状態が長時間続くと不可逆に凝集しアミロイドへと成長してしまうことが知られています。DNA-cGASによる液滴も同様にアミロイドへと変化するのかどうか、さらにそれを抑制するような、液滴または凝集を壊すような機構が存在するのかどうか、こちらも気になるところです。

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