分子細胞生物学

PubMedID 29472616
Title Mutant p53 cancers reprogram macrophages to tumor supporting macrophages via exosomal miR-1246.
Journal Nature communications 2018 02;9(1):771.
Author Cooks T,Pateras IS,Jenkins LM,Patel KM,Robles AI,Morris J,Forshew T,Appella E,Gorgoulis VG,Harris CC
  • Mutant p53 cancers reprogram macrophages to tumor supporting macrophages via exosomal miR-1246.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 広瀬 思帆
  • 投稿日 2018/12/12

p53変異は多くの癌病態の形成に関与している。特に、いくつかのp53変異で引き起こされる機能獲得型変異(Gain of Function, GOF)は、p53分子が本来持つ癌抑制能が欠失するだけでなく癌促進性として機能することが知られている。固形癌のストローマで多く存在する腫瘍随伴マクロファージ(Tumor associated macrophage, TAM)は、予後不良と強い相関性を持つ。本論文では、p53変異によるGOFを引き起こした癌細胞が、細胞非自律的にマクロファージをTAMにリプログラミングさせ、腫瘍促進に働いていることを報告している。大腸癌細胞株を用いた研究により、p53変異によるGOFを起こした癌細胞から放出されたエクソソーム には、miR-1246が多く蓄積していることが明らかとなった。近隣に存在するマクロファージがこれらのエクソソームを取り込んだところ、miR-1246依存的に癌促進性の形質を示すことがわかった。リプログラムされたTAMは、TGF-β経路を活性化させることで抗炎症性サイトカインを放出し、抗腫瘍免疫を抑制に導いていた。これらの結果は、実際の大腸癌患者で同じような傾向が確認され、予後不良と相関性があることがわかった。これらの結果は、p53変異によるGOFが免疫システムに干渉することで微小環境を構築するという、新たな知見を提供するものである。

筆者らはまずp53変異を持つ癌細胞が間質細胞にいるマクロファージに影響を及ぼしうるのか検証すべく、p53のMTを持つ癌細胞とM0,M1,M2に分化させたマクロファージをそれぞれ共培養させた。共培養後したマクロファージのmRNA量をqRT-PCRした結果、HCT116との共培養では、p53変異によりM0・M2マクロファージにおいて免疫抑制性サイトカインであるIL-10の発現量が増えた。HT29では、ShRNAによるp53のノックダウンの結果、M0マクロファージはTNF-aの発現量が増え、M2マクロファージではIL-10が減少した。さらに共培養によりM2 型マクロファージの表現系が見られるか検証するべく、マーカーとして知られるCD163・CD206分子に着目したフローサイトメトリーを行なった結果、p53変異型の細胞株と培養した場合にマーカーの増加が見られた。

次に超遠心により回収したエクソソームをウエスタンブロットにより確認したところ、エクソソームマーカーであるTSG101やCD9が陽性となっていた。また、粒子計測器による測定ではエクソソームの平均サイズである100-200nmにピークが見られ、またp53変異を有する細胞株ではエクソソーム濃度が増加していた。Syto RNAにより、エクソソーム中のmiRNAを蛍光標識した結果、共培養してから12時間後、マクロファージに蛍光が確認された。バイオアナライザによりエクソソーム中の小分子RNAの純度を確認した結果、miRNAの塩基数である18-25baseにピークが見られた。マイクロアレイによりp53の野生型と変異型細胞株由来のエクソソームを調べた結果、miR-1246やmiR-21が多く蓄積していた。

HCT116と共培養させたマクロファージ中のmiRNAをqRT-PCRした結果、M0とM2マクロファージでは、p53変異を持つHCT116との共培養によりmiR-1246の発現量が亢進していた。精製したエクソソームのみをマクロファージに添加した後qRT-PCRを行なった結果、何も加えていないコントロールと比較してmiR-1246の発現量が有意に増加していた。M1/M2マクロファージにmiRNA-1246のmimicをトランスフェクションし、サイトカイン遺伝子の発現量を見た結果、M2マクロファージでは、IL-10が増え、TNF-aが減少していた。HCT116にmiR-1246のinhibitorを添加後HCT116とM2マクロファージを共培養させたところ、マクロファージ中のIL-10およびCCL2の発現量が低下していた。さらに、size exclusion columnによりエクソソーム画分とcell free protein画分にわけてマクロファージに添加した結果、TNF-αやIL-8の減少およびIL-10、TGFβ等の増加が確認された。さらにHCT116由来のエクソソームを加えた際のM2マクロファージのmiR前駆体の発現量をpRT-PCRで確認したところ発現の上昇は見られなかった。

さらにp53変異とmiR-1246の相関性をしらべるため、大腸がん患者をp53変異と野生型に臨床検体をわけ、組織中のmiRNAをマイクロアレイによる解析を行った。その結果、miR-1246が、p52野生型の患者と比較して発現量の顕著な増加が見られた。組織中のmiR-1246とp53の相関性を確かめるべく、in situ hybridizationを行った結果、免疫細胞のいるストローマではmiR-1246量が増加していた。さらに、miR-1246ががん細胞からマクロファージに伝搬されることを示すため、大腸癌組織の間質をFISH法にて免疫染色を行った。結果、p53の野生型と比較して変異型ではmiR-1246の発現部位とTAMマーカーであるCD206の発現が一致していた。さらに大腸癌患者の血漿から、エクソソーム中のmiR-1246の量を比較した結果、miR-1246は、p53の野生型と比較して変異型の患者で血漿エクソソーム中の量が多いことがわかった。p53変異とmiR-1246の相関性をしらべるため、大腸がん患者をp53変異とWTに臨床検体をわけ、組織中のmiRNAをマイクロアレイによる解析を行った。その結果、miR-1246が、p52野生型の患者と比較して発現量の顕著な増加が見られた。p53変異によりリプログラムされたTAMが免疫抑制にどう寄与しているかを明らかにするべく、大腸癌患者の組織内でp53変異により発現の上昇した遺伝子セットに着目した。大腸癌患者の腫瘍部を組織染色した結果、p53変異型の大腸癌では、野生型と比較してTregのマーカーであるFOXp3がより多くみられた。GOFを引き起こすp53変異を持つ患者の腫瘍とその他のp53変異を比較したところ、IL-10のように免疫抑制性サイトカインの発現が上昇し、逆に免疫促進性の遺伝子セットは含まれていなかった。さらに、TGF-B signaling pathwayに特化した解析を試みたところ、相関性が強いことがわかった。

これらの結果は、p53変異を持つ癌細胞は、マクロファージに細胞非自律的な影響を与えること、癌細胞から放出されたエクソソーム は近隣のマクロファージに取り込まれること、そして大腸癌患者では、p53の変異はTAMと正の相関性を持つことを示している。今後、p53の変異と癌免疫抑制機構の新たなメカニズムの解明が求められる

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