分子細胞生物学 | その他

PubMedID 30409884
Title WDFY4 is required for cross-presentation in response to viral and tumor antigens.
Journal Science (New York, N.Y.) 2018 11;362(6415):694-699.
Author Theisen DJ,Davidson JT,Briseño CG,Gargaro M,Lauron EJ,Wang Q,Desai P,Durai V,Bagadia P,Brickner JR,Beatty WL,Virgin HW,Gillanders WE,Mosammaparast N,Diamond MS,Sibley LD,Yokoyama W,Schreiber RD,Murphy TL,Murphy KM
  • WDFY4 is required for cross-presentation in response to viral and tumor antigens.
  • Posted by 大阪市立大学 医学研究科 分子病態学 寺脇 正剛
  • 投稿日 2018/12/26

獲得免疫応答には細胞性免疫応答、液性免疫応答が含まれるが、いずれにおいても抗原特異的なT細胞のプライミングと増殖が必須である。T細胞は抗原提示細胞(APC)がMHC分子上に提示する抗原ペプチドを認識することで活性化するが、そのサブセットにより活性化の様式が異なっている。細胞免疫を担うCD8陽性のT細胞(キラーT細胞)は、がん抗原やウイルス抗原など細胞質由来のタンパク(内在性抗原、もしくは細胞内抗原)がユビキチン-プロテアソーム系で分解されて生じるペプチドが小胞体経由でMHCクラスI分子に提示されたものを認識する一方、液性免疫を担うCD4陽性のT細胞(ヘルパーT細胞)は、細菌などの細胞外抗原(もしくは外来性抗原)がファゴサイトーシスやエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、リソソーム分解により生じたペプチドがMHCクラスII分子に提示されたものを認識して活性化する。ウイルス感染細胞に対して細胞傷害性のキラーT細胞が、細菌等に対してCD4陽性T細胞を介した抗体応答が誘導されるのは理にかなっているように見えるが、例えば抗原提示細胞が死んだウイルス感染細胞や腫瘍細胞をエンドサイトーシスで取り込んでも、これらの抗原に対するCD8陽性T細胞の活性化を誘導することができないことになる。実際にはエンドサイトーシスで取り込まれた細胞外抗原は何らかの経路を介してMHCクラスIに提示されCD8陽性T細胞を活性化しうることが知られており、これをクロスプライミングという。クロスプライミングという現象があることはすでに広く受け入れられているが、その詳細なメカニズムは今だに明らかになっていない。

生体内で最も強力な抗原提示細胞である樹状細胞にも様々なサブセットがあることが知られている。2次リンパ器官に存在する古典的な樹状細胞もcDC1とcDC2の2つのサブセットに分類されるが、このうちCD8陽性のcDC1がクロスプライミングを担っていることが明らかになってきている。この論文を報告したKen Murphyらのグループは10年前にもScience誌にクロスプライミングに関する論文を報告しており、その際にはcDC1に高発現する転写因子Batf3をノックアウトするとcDC1が消失して生体レベルでのクロスプライミングが失われ、CD8陽性T細胞を介した抗腫瘍免疫が誘導できないことを示した。これにより細胞傷害性T細胞の誘導にはcDC1におけるクロスプライミングが重要であることを明確にしたが、その分子メカニズムは不明のままであった。今回の論文でKen Murphyらは、cDC1に特異的に発現する遺伝子に対するガイドRNA(sgRNA)ライブラリを作製し、Cas9トランスジェニックマウス由来の骨髄細胞から誘導したcDC1に導入して、クロスプライミングに影響を及ぼす因子のゲノム編集によるスクリーニングを行なった結果、WDFY4という遺伝子を候補として得た。そこでこのWDFY4のノックアウトマウスを作製し、このマウス由来のcDC1を用いてクロスプライミングへの影響を確認したところ、殺菌したリステリアや内在性OVA抗原をもつ細胞を取り込ませた場合、cDC1による抗原特異的なT細胞のプライミングが誘導されないことが確認された。しかし面白いことに抗原として可溶性OVAを用いたクロスプライミングは完全には抑制されなかった。またWDFY4遺伝子の有無にかかわらず、弱いながらも可溶性抗原はcDC2によってもクロスプライミングされ、抗原特異的なCD8陽性T細胞を活性化した。これは細胞に付随する抗原のクロスプライミングと可溶性抗原のクロスプライミングを担う経路が別々に存在しており、WDFY4は前者に必須であることを示唆している。筆者らはマウスを用いた腫瘍の移植実験も行っており、野生型マウスでは免疫系によって排除されうる線維肉腫がWDFY欠損マウスでは排除できないことを示しており、cDC1におけるWDFY4依存的なクロスプライミングが腫瘍などの細胞関連抗原に対する細胞免疫応答に決定的な役割を担っていることを示した。WDFY4はおもに細胞膜近傍のエンドソームに局在していること、またプロテアソーム系で産生された抗原ペプチドを小胞体に取り込むTAP1の欠損マウスでもクロスプライミングが阻害されることなどから、WDFY4はエンドサイトーシスなどにより細胞に取り込まれた抗原を細胞質における分解系に引き渡す役割があると筆者らは推測しているが、抗原トラフィッキングにおけるWDFY4の詳細な機能は明らかにはされていなかった。またマウスではcDC2にもWDFY4は発現していることから、WDFY4がcDC1とcDC2におけるクロスプライミング能の差異を生じさせているわけではないようである。クロスプライミングは、未解明の細胞内トラフィッキング経路が特定の細胞集団に存在し、それが免疫応答を制御しているという非常に興味深い現象であり、今後の研究の展開に期待したい。

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