分子細胞生物学

PubMedID 30244832
Title A Loss of Epigenetic Control Can Promote Cell Death through Reversing the Balance of Pathways in a Signaling Network.
Journal Molecular cell 2018 10;72(1):60-70.e3.
Author Vanaja KG,Timp W,Feinberg AP,Levchenko A
  • A Loss of Epigenetic Control Can Promote Cell Death through Reversing the Balance of Pathways in a Signaling Network.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 田中 翔
  • 投稿日 2019/10/30

細胞調節におけるエピジェネティックな制御は、多様な生理学的および病理学的な細胞および組織の挙動に重要であると考えられてきている。そのひとつであるゲノムインプリンティングは父母由来の様々な遺伝子発現を異なるレベルになるよう調節するものであるため、インプリンティングの喪失はこれらの遺伝子の発現量を変化させ、組織構造および機能の著しい変化をもたらすことが報告されている。この遺伝子座におけるエピジェネティックな変化はウィルムス腫瘍を筆頭に他の複数の症候群とも関連していることが知られている。このようにIGF2のインプリンティングの喪失(LOI)が臨床的に関連しているため、細胞増殖や生存の調節解除に関わる理解は重要であるものの、LOI表現型の詳しい生理的機構は未だに多くが未解明である。

筆者らは特にインスリン様成長因子2(IGF2)の母性インプリンティングに着目し、WT細胞とIGF2インプリンティング喪失細胞(LOI細胞)それぞれについてERK経路とAkt経路の予測モデルを構築し、IGF2のインプリンティングの喪失がIGF2を発端としてERK経路とAkt経路を介したBaxとBcl-2による細胞死制御ネットワークのリバランスを引き起こすことを見出した。そしてLOI細胞ではWT細胞に比べて細胞死への感受性が高まることから、IGF2の受容体であるIGF1Rの阻害剤を用いたLOI由来疾患の治療応用の可能性を報告した。

本論文は数理モデルを活用し、ERK経路やAkt経路といったシグナル伝達と細胞死制御の予測を試みたという点で非常に興味深い内容であった。また新たに見出された細胞死の感受性の違いを利用したIGF2インプリンティング喪失由来疾患治療の可能性を示唆していることから今後の研究に期待したい。

返信(0) | 返信する