分子細胞生物学

PubMedID 30573629
Title NK cell-mediated cytotoxicity contributes to tumor control by a cytostatic drug combination.
Journal Science (New York, N.Y.) 2018 12;362(6421):1416-1422.
Author Ruscetti M,Leibold J,Bott MJ,Fennell M,Kulick A,Salgado NR,Chen CC,Ho YJ,Sanchez-Rivera FJ,Feucht J,Baslan T,Tian S,Chen HA,Romesser PB,Poirier JT,Rudin CM,de Stanchina E,Manchado E,Sherr CJ,Lowe SW
  • NK細胞を介した細胞傷害は、細胞増殖阻害剤の併用によって腫瘍制御に寄与する
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 川瀧 紗英子
  • 投稿日 2019/10/30

 K-Rasの変異と発癌との強い関連は広く知られている。筆者らは、MEK阻害剤とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害剤を組み合わせることによって、K-Ras変異を持つ肺癌細胞の増殖が抑制されると同時に、腫瘍細胞死につながるナチュラルキラー(NK)細胞の免疫監視が促進されることを示した。
 筆者らは、阻害剤の抗腫瘍効果における免疫系の寄与を評価するため、正常マウスに対してKP(K-RasG12D/+; p53-/- )変異を持つ腫瘍を移植することによって、肺腺癌モデルマウス(KP移植マウス)を作成した。このモデルにおいては、MEK阻害剤およびCDK4/6阻害剤両方を投与した場合に腫瘍体積の有意な減少と生存日数の延長が認められた。しかしながら、この効果はNK1.1抗体を与えることによりキャンセルされたため、NK細胞が両阻害剤の併用療法の奏功に必要であることがわかった。
 さらに、両阻害剤併用療法によってp53ではなくRBタンパク質が活性化され、細胞老化が誘導されることが確認された。細胞老化によってIL-15やIL-6などの炎症性サイトカイン、CCL2やCXCL1などのケモカインを含むSASP因子の分泌が活性化されるが、その中でも腫瘍壊死因子(TNFa)および細胞間接着分子(ICAM1)がNK細胞の活性化において重要であることがわかった。 さらに、K-RasG12D/wt;Trp53flox/floxマウスを用い、肺特異的に発癌を誘導したところ、両阻害剤の併用療法はNK 細胞を介して腫瘍の縮退を導いた。
 以上から、細胞老化を誘発する細胞増殖の阻害剤は、SASP因子を介したNK細胞の腫瘍免疫の賦活化によって腫瘍増殖を抑制することが示された。

 臨床的な側面からの懸念としては、MEK阻害剤とCDK4/6阻害剤の併用療法による副作用の大きさが挙げられる(本論文には、投薬時のマウスの体重変化等、副作用に関するデータは示されていない)。また、トラメチニブは空腹時、CDK4/6阻害剤は食後(満腹時)に服用するのが適切とされている。本論文では投薬のタイミングに関する考察は見られないが、実際に臨床応用を考える上では重要な観点であると思われる。

返信(0) | 返信する