分子細胞生物学

PubMedID 30423298
Title KRAS Suppression-Induced Degradation of MYC Is Antagonized by a MEK5-ERK5 Compensatory Mechanism.
Journal Cancer cell 2018 11;34(5):807-822.e7.
Author Vaseva AV,Blake DR,Gilbert TSK,Ng S,Hostetter G,Azam SH,Ozkan-Dagliyan I,Gautam P,Bryant KL,Pearce KH,Herring LE,Han H,Graves LM,Witkiewicz AK,Knudsen ES,Pecot CV,Rashid N,Houghton PJ,Wennerberg K,Cox AD,Der CJ
  • KRAS Suppression-Induced Degradation of MYC Is Antagonized by a MEK5-ERK5 Compensatory Mechanism.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 高木 祐輔
  • 投稿日 2019/11/01

Krasの活性型変異は、膵管腺癌(PDAC)の約95%で認められる。PDACの進展において、Rasの活性型変異やその下流で活性化されるERK1/2およびMycが主要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしながら、RasやMycを薬剤で抑制することが難しいことや、ERK1/2経路の阻害にも抵抗性を示す細胞が出現することなどから有効な分子標的治療は確立されていない。

筆者らは先行研究において、PDAC細胞にはERK1/2阻害剤により効率よく増殖が抑制される感受性細胞と、増殖が全く抑制されない抵抗性細胞が存在することに着目し、その違いを解析した。そして、感受性細胞ではERK1/2の活性低下に伴いMycの発現が抑制されるのに対して、抵抗性細胞ではERK1/2の活性が抑制されてもMycの発現が抑制されないことを見出した。また、このMycの発現維持がERK1/2阻害剤に抵抗性を示す機構の一つであることを明らかにした(Hayes et al. Cancer Cell 2016)。この結果は、Mycの発現制御にはERK1/2依存的な既知の機構に加えて、ERK1/2に依存しない新たな機構が存在することを示唆している。本論文では、この新たな機構を解明すべく研究を行っている。

まず筆者らは、ERK1/2阻害時にもMycの発現が維持される機構を解析し、ユビキチン分解の抑制によるタンパク質の安定化が関与することを示した。また、Mycの安定化に関与するキナーゼおよびシグナル伝達因子をスクリーニングし、ERK5の関与を見出した。そして、ERK1/2の活性低下に伴いERK5が活性化すること、ERK5によるSer62のリン酸化がMycの安定性に重要であることを明らかにした。さらに筆者らは、ERK1/2阻害によってどのようにERK5の活性化が引き起こされるかを解析し、ERK1/2の活性抑制がネガティブフィードバック機構の破綻によるEGFRの再活性化を引き起こすこと、EGFRの下流でERK5の活性が亢進することを示した。これらの結果から、ERK1/2阻害時にはERK5が代償的に活性化してERK1/2の機能を補うという新たな薬剤抵抗性機構が示唆された。実際に、ERK1/2阻害剤時にERK5阻害剤を同時に処理すると、単剤と比較してMycの分解および細胞増殖の抑制効果が相乗的に高まることが確認された。

本論文は、ERK5の代償的な活性化というERK1/2阻害剤の抵抗性機構の一端を明らかにするとともに、ERK1/2阻害剤とERK5阻害剤の併用がMycの発現を効率良く抑制して抗腫瘍効果をもたらすことを示している。本論文ではPDACについてのみ言及しているが、Rasの活性型変異やMycの機能亢進は癌種を超えて共通に観察されることから、筆者らの示した機構は、多くの癌に適応する新たな標的治療になりうると考えられる。

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