分子細胞生物学

PubMedID 31302002
Title IKKα Kinase Regulates the DNA Damage Response and Drives Chemo-resistance in Cancer.
Journal Molecular cell 2019 Aug;75(4):669-682.e5.
Author Colomer C,Margalef P,Villanueva A,Vert A,Pecharroman I,Solé L,González-Farré M,Alonso J,Montagut C,Martinez-Iniesta M,Bertran J,Borràs E,Iglesias M,Sabidó E,Bigas A,Boulton SJ,Espinosa L
  • IKKα Kinase Regulates the DNA Damage Response and Drives Chemo-resistance in Cancer.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 大塚 龍平
  • 投稿日 2019/11/05

 NF-κBは免疫およびガンのプログレッションに重要な因子である。TNF-αやIL-1βといった種々の細胞外刺激により、IKKα、IKKβ、NEMOからなる複合体が活性化され、これがIκBをリン酸化することでNF-κBが活性化する。IKKαはNF-κBのリン酸化に不可欠ではないが、ガンとの様々な関連が報告されている。筆者たちは以前、核におけるIKKαの活性化体であるIKKα(p45)を発見している。これはガン細胞の核に存在し、非活性化型のIKKαと相互作用することによりヒストンH3をリン酸化し、NF-κBシグナルとは独立にガンの成長を促進させる。IKKα(p45)の活性化にはBRAFおよびTAK1が必要である。また、DNA損傷等などの条件下でp38αはTAK1およびIKKαの活性化などに関連しているとの報告もある。

 筆者らはIKKα(p45)がDNA損傷応答に関連している可能性を考えて実験を行なった。その結果、IKKα(p45)はUVやγIR、Etoposideといった種々のDNA損傷によって活性化され、その活性化はその他のDNA損傷応答関連分子よりも迅速でありBRAFやKRASの変異には無関係であることがわかった。
 次に、DNA損傷応答の初期反応であるATMとATRの活性化を阻害しても、IKKα(p45)の活性化には影響しなかった。また、TAK1、BRAF、p38の阻害剤はUVによるIKKα(p45)の活性化を阻害し、p38 KO細胞を用いても同様にIKKα(p45)の活性化は阻害された。一方でIKKα欠損細胞ではUV照射時のATMの活性化が減弱したが、mCherry-IKKαのレスキューによりその活性化は回復した。さらに、UV照射時にATMとFull lengthのIKKα、IKKα(p45)との相互作用が確認され、IKKαがATMを直接リン酸化することがわかった。
 そしてBRAFの阻害剤を処理すると、53BP1およびγ-H2A.Xが24時間経っても残存しており、DNA修復が遅延していた。53BP1およびRIF1のco-recruitmentはBRAF阻害剤およびIKKαのKOにより阻害され、IKKα KO細胞においてDNA損傷が大きくなっていることが確認された。

 患者から採取した大腸ガン腫瘍においてBRAFの阻害剤を用いると、DNA障害によるATMの活性化が阻害された。AZ628やVemurafenibといったBRAF阻害剤を併用すると治療効果が増強され、BRAF阻害剤と5FUおよびIrinotecanの併用ではDNA障害が確認された。CRISPR-Cas9によって部分的にIKKαを減弱させると、ATMの活性化もやはり減弱したが、その治療効果の増強は、BRAFの阻害剤ほどではなかった。
 加えて、DNA障害性抗ガン薬および抗EGFR療法に耐性を持つ転移性の大腸ガンをマウスの盲腸に移植し、処置を行なったところ、5FU+Irinotecan+Vemurafenib処置群にて単剤投与群と比較して腫瘍の成長抑制を確認した。複数剤処置群では、ネクローシス及び繊維化が見られ、DNA障害が強く生じていた。さらに、予後も大きく改善した。

 BRAF阻害剤と攻守要約の併用による治療効果向上はBRAF阻害によるIKKαの影響だとは言えないが、BRAFの変異に関わらないため治療対象が拡大される可能性がある。また、従来単体では効果の薄かった抗腫瘍薬をBRAFの阻害剤と組み合わせることで、新たな治療戦略となりうる可能性を示唆した。

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