分子細胞生物学

PubMedID 30824372
Title P-TEFb Activation by RBM7 Shapes a Pro-survival Transcriptional Response to Genotoxic Stress.
Journal Molecular cell 2019 04;74(2):254-267.e10.
Author Bugai A,Quaresma AJC,Friedel CC,Lenasi T,Düster R,Sibley CR,Fujinaga K,Kukanja P,Hennig T,Blasius M,Geyer M,Ule J,Dölken L,Barborič M
  • P-TEFb Activation by RBM7 Shapes a Pro-survival Transcriptional Response to Genotoxic Stress.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 大江 星菜
  • 投稿日 2019/11/05

 本論文では、細胞損傷刺激が細胞に加わった際、転写の活性化と生存の促進にRBM7(RNA-binding motif protein 7) と呼ばれる、RNA結合タンパク質が関与することを報告している。一般的に、RBM7は核内に局在するエクソソーム複合体NEXT(nuclear exosome targeting complex)の補助因子として機能する。エクソソーム複合体とは3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を担う複合体で、多様なRNAを基質として、RNA分子の成熟過程や異常RNAの除去を触媒する事で、細胞内の品質管理に関与する。先行研究では、UVや4-NQO(4-nitroquinoline 1-oxide)といったDNA損傷を誘導するストレス刺激が細胞に加わると、NEXTのエクソヌクレアーゼ活性は失われる一方、RBM7が細胞の生存に寄与することが示されていた。
 そのため著者らは、RBM7の新たな機能を探索するために、iCLIP(individual-nucleotide-resolution UV crosslinking and immunoprecipitation) assayによるスクリーニングを行ない、7SKと呼ばれるRNAを単離した。7SKは4つのステムループを持つRNAであり、通常は、LARP7、MePCE、HEXIM、P-TEFbなど複数のタンパク質と結合し、7SK snRNPとして存在している。特に、7SK snRNPはP-TEFbの活性を制御する事が知られる。P-TEFbは、RNAポリメラーゼIIをリン酸化し、転写の活性化と遺伝子発現に関わる重要な因子である。7SKsnRNPは、無刺激時にはP-TEFbを取り込み、これを不活性化する。一方で、細胞に刺激が加わると、7SKsnRNPはP-TEFbをリリースして、転写を活性化する。著者らは、細胞損傷刺激後RBM7が7SKsnRNPに作用する事で、P-TEFbの活性と転写の制御に関与する可能性を考えた。
 細胞損傷刺激後のRBM7と7SK、またはRBM7と7SKsnRNP構成因子(LARP7、MePCE、HEXIM、P-TEFb)との相互作用を検証すると、RBM7と7SKとの結合は、刺激直後に極大となったのち、徐々に弱まる軌跡を辿る一方、P-TEFbを構成するCDK9やRNAポリメラーゼIIとの結合は徐々に強まる事がわかった。つまり、細胞損傷刺激後RBM7は一旦7SKsnRNPと結合し、その後P-TEFbとともにリリースされる可能性を示した。さらに、RBM7をノックダウンすると、7SKsnRNP からのP-TEFbのリリースは抑制され、細胞損傷刺激によって誘導される遺伝子(FOS, JUN, EGR1など)の発現は減少した。さらにRBM7を発現する細胞と比較し、RBM7をノックダウンした細胞では、細胞損傷刺激への感受性が上がることも明らかとなった。
 以上の結果から、著者らは、これまでエクソソーム複合体の補助因子として知られていたRBM7は、UVをはじめとする細胞損傷刺激が加わると7SKsnRNPと作用してP-TEFbのリリースを促進することで、生存に必要な一連の遺伝子発現を誘導し、細胞死を抑制する働きがあることを示した。本研究が示すモデルでは、RBM7の機能を切り替えるスイッチとして、p38によるRBM7のリン酸化が関与することを示しているが、論文中にはそれを裏付ける十分な根拠はない。しかしながら、細胞損傷刺激に応答する細胞の生存戦略としては、非常に興味深い知見であると思う。

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