分子細胞生物学

PubMedID 29677490
Title EGFR-Phosphorylated Platelet Isoform of Phosphofructokinase 1 Promotes PI3K Activation.
Journal Molecular cell 2018 04;70(2):197-210.e7.
Author Lee JH,Liu R,Li J,Wang Y,Tan L,Li XJ,Qian X,Zhang C,Xia Y,Xu D,Guo W,Ding Z,Du L,Zheng Y,Chen Q,Lorenzi PL,Mills GB,Jiang T,Lu Z
  • EGFR-Phosphorylated Platelet Isoform of Phosphofructokinase 1 Promotes PI3K Activation.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 森泉 寿士
  • 投稿日 2019/11/05

 多くの癌細胞は、有酸素下においても積極的に解糖系を使いATPを産生する現象、ワールブルク効果が観察される。解糖系でのグルコースからピルビン酸まで生成する10段階の反応の中で不可逆反応は3段階あり、各不可逆反応で働く酵素を律速酵素と呼ぶ。よって細胞は、律速酵素の活性を調節することで、解糖系全体の反応速度を調節することが可能である。しかし、解糖系が亢進している癌細胞での律速酵素の機能は十分に分かっていない。

 今回、筆者らは律速酵素の1つであるPhosphofructokinase 1(PFK1)のisoformのPFKPが、増殖因子のEGF刺激依存的にKAT5(acetyltransferase)によってアセチル化されること、さらにアセチル化されたPFKPは、細胞膜上でEGFRと結合して、PFKPのTyr64残基がリン酸化されることを見出した。そこで次にPFKP(Y64)のリン酸化が、生理的にどのような意義があるのか解析を行った。その結果、リン酸化されたPFKPは、PI3Kの調節サブユニットであるp85aを細胞膜上にリクルートして、PI3K/AKT経路の活性化を誘導することが分かった。
 活性化したAKTは、解糖系の律速酵素であるPFK1の活性を高めることが知られている。実際に、PFKPのY64のリン酸化は、AKTの活性化を介して、PFK1の活性化および解糖系を亢進させた。またマウスを用いた実験においても、PFKP(Y64)のリン酸化は、解糖系を亢進させ、増殖および腫瘍形成を促進させることが明らかになった。

 今回筆者らは、PFKPが律速酵素としての機能以外に、PFKP(Y64)のリン酸化を介して、PI3K/AKTを活性化を誘導し結果、解糖系を亢進させることを明らかにした。さらに解糖系の亢進が癌の増殖および腫瘍形成を誘導することを示した。しかし、PI3K/AKT経路の活性化は、解糖系を介さずに細胞生存、増殖、血管新生を誘導することが知られており、本論文の増殖・腫瘍形成に、どの程度解糖系が関わっているかは疑問である。また、EGFRからPI3K/AKT経路への伝達は、主にRasを介して行われると考えられているが、今回明らかにしたRasを介さないPI3K/AKT経路の活性化機構はとても興味深い知見である一方、PI3K/AKT経路の活性にどの程度重要なのか、今後の研究に期待したい。

返信(0) | 返信する