分子細胞生物学

PubMedID 31227231
Title HCF-1 Regulates De Novo Lipogenesis through a Nutrient-Sensitive Complex with ChREBP.
Journal Molecular cell 2019 Jul;75(2):357-371.e7.
Author Lane EA,Choi DW,Garcia-Haro L,Levine ZG,Tedoldi M,Walker S,Danial NN
  • HCF-1 Regulates De Novo Lipogenesis through a Nutrient-Sensitive Complex with ChREBP.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 関 仁実
  • 投稿日 2019/11/06

 De novo lipogenesis(DNL) とは、肝臓において余剰なグルコースを脂質に変換する働きであり、重要な代謝の要素である。しかし、過剰なDNLは非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD) などの病気につながる。ChREBP(Carbohydrate response element binding protein) はグルコース代謝経路において重要な転写因子であり、その増加はNAFLDと関連していることも判明している。また過去の研究により、ChREBPは糖鎖修飾反応の一種であるO-GlcNAc化を受けることで、自身のDNA結合親和性、転写活性、タンパク質安定性を増加させることが分かっていたが、そのO-GlcNAc化をコントロールするメカニズムも含め、ChREBPの活性制御機構の詳細は解明されていなかった。

 まず筆者らは、肝臓細胞よりChREBPを精製し、質量分析にてその結合分子を同定した。その結果、過去にChREBPとの結合が未報告であったhost cell factor 1 (HCF-1) をChREBP結合因子として見出した。これまでに、HCF-1はO-GlcNAc化酵素であるOGT(O-GlcNAc transferase) をリクルートすることによりHCF-1結合因子のO-GlcNAc化を促進することが知られていた。そこで、筆者らはHCF-1をノックダウンした後、ChREBPのO-GlcNAc化を観察したところ、著明な抑制が認められたことから、HCF-1がOGT
とChREBPとの結合を補佐するアダプター因子として機能する可能性が考えられた。また、OGTはHCF-1をO-GlcNAc化するのみならず、2つのフラグメントに切断・分割するプロテアーゼとしての活性も有していることが知られていた。そこで、このHCF-1の切断とO-GlcNAc化がChREBPとの結合にどのように影響するかin vitroにて検証した結果、HCF-1がChREBPと結合するためには、OGTによる切断とO-GlcNAc化の両方が必要であることが明らかとなった。また、PHF2は阻害性H3K9me2を脱メチル化して転写を促進するエピジェネティックなコアクティベーターであるが、今回筆者らはHCF-1をノックダウンすることでChREBPを含むプロモーター複合体へのPHF2のリクルートが抑制されることを示した。さらに、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎) 患者の肝臓において、これらHCF-1、ChREBP、PHF2のタンパク質レベルが健康なドナーと比較して有意に高いことを確認した。これによって筆者らは、HCF-1:ChREBP複合体が、脂肪肝疾患に関係する可能性を主張している。

 この研究は脂肪肝疾患に関係する可能性のあるChREBPの新規相互作用因子としてHCF-1を特定した点で興味深い。しかしながら本論文では、転写がグルコース応答的でないChREBPαと、応答的であるChREBPβという2つのアイソフォームの影響に関して言及せず、まとめてChREBPとして扱っている。また、O-GlcNAc化の証明については糖鎖結合レクチンとの相互作用性のみを根拠にしているため、O-GlcNAc特異的抗体による検出も必要と考えられる。加えて、in vitroにおけるHCF-1の切断アッセイではHCF-1タンパク質の切断型バンドを検出しているが、切断前後でHCF-1タンパク質の総量が合っていない。これらの点を踏まえ、本論文での結論を導くには未だ若干の検討の余地が残されていると考えられる。

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