分子細胞生物学 | 数理解析

PubMedID 30449668
Title Two Interlinked Bistable Switches Govern Mitotic Control in Mammalian Cells.
Journal Current biology : CB 2018 12;28(23):3824-3832.e6.
Author Rata S,Suarez Peredo Rodriguez MF,Joseph S,Peter N,Echegaray Iturra F,Yang F,Madzvamuse A,Ruppert JG,Samejima K,Platani M,Alvarez-Fernandez M,Malumbres M,Earnshaw WC,Novak B,Hochegger H
  • 分岐解析と実験により明らかになったG2M transitionにおける第3の安定点
  • Posted by 東邦大学 医学部 生理学講座細胞生理学分野 間木 重行
  • 投稿日 2019/11/11

サイクリン依存性キナーゼの一つであるCDK1はサイクリンB (CycB)と複合体を形成し、タンパク質のリン酸化状態を劇的かつ厳密に制御することで細胞周期の間期からM期への移行を司る。一方でM期から間期への移行は上記複合体の不活性化を伴う。
CDK1/CycB複合体の活性は、Wee1依存的なリン酸化による活性阻害と、Cdc25による上記リン酸化サイトの脱リン酸化によって調節される。Wee1および、Cdc25の活性自体もCDK1/CycB複合体によって調節されるため、それぞれダブル・ネガティブフィードバックループおよび(ダブル)ポジティブフィードバックループが形成されている。上記のフィードバック制御は、G2期におけるCycBの発現上昇の応じたCDK1/CycB複合体の0or1のスイッチ様活性化、およびCycBの発現量に依存したヒステリシスを生み出し、ノイズの多い細胞環境でM期の安定性を支えている。
また、M期から間期への脱出時にはCycBがプロテアソームによる分解を受けるほか、CDK1から Greatwall kinase (Gwl)を介したPP2A:B55によるネガティブフィードバックが寄与していることが近年明らかになりつつある。しかしながら、哺乳類細胞のG2Mスイッチシステムに対してCDK1活性化とPP2A:B55阻害フィードバックがどのように寄与しているか、その全容は解明されていない。

はじめに筆者らは、CDK1阻害剤およびプロテアソーム阻害剤を用いた実験により、G2期からM期への移行およびM期から間期への脱出を規定するCDK1阻害剤の濃度(≒CDK1/サイクリンBの活性閾値)が異なること、即ちヒステリシスが存在することを確認した。
続いて、CDK1/CycBを制御する分子反応がヒステリシスに対する影響を評価したところ、Wee1ノックダウンはM期への移行にのみ影響すること、GwlのノックダウンはM期への移行および脱出の両方に影響すること、Wee1およびGwlのダブルノックダウンによりヒステリシスが完全に消失することが見いだされた。また、GwlのsiRNAおよびWee1阻害剤の共処理を行った細胞の大部分は、有糸分裂を開始するものの染色体分離および細胞分裂を伴わずに間期に移行することから、両分子反応がヒステリシスを担保することによりM期の安定性に寄与している可能性が示唆された。
上記データをパラメタフィッティングに利用し、CDK1/CycB、Wee1、Cdc25からなるNovak&TysonのモデルをベースにGwlやPP2A:B55を加えた数理モデルを作成した。作成したモデルの分岐解析を行った結果、シングルノックアウトにおける双安定状態の変化およびダブルノックアウトによる双安定状態の消失が再現可能であることが示された。
また、ノックダウンを行わっていないベースモデルにおいては、M期と間期の安定状態の他に、その中間状態ともいえる第3の安定状態が存在することが示唆された。第3の安定状態が本当に存在するかを実験によって確認したところ、クロマチンが部分的に凝集し、細胞が丸くなりつつも核膜が壊れないまま留まっている細胞が存在することを見出した。

使用している阻害剤の特異性や、Wee1の阻害剤を使うかsiRNAを使うかがデータによって異なるなど細かな気になる点はあるものの、分岐解析による予測および検証実験によってG2M移行時の第3の安定点の発見という内容は個人的には非常にインパクトのある内容だと感じた。細胞間での違い、特に正常細胞でも類似の機構が備わっているのか、本モデルと類似した機構で説明できる未解明な生理現象がないか等、興味を持って考察をしていきたい。

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