分子細胞生物学

PubMedID 31442426
Title Proximity RNA Labeling by APEX-Seq Reveals the Organization of Translation Initiation Complexes and Repressive RNA Granules.
Journal Molecular cell 2019 Aug;75(4):875-887.e5.
Author Padrón A,Iwasaki S,Ingolia NT
  • Proximity RNA Labeling by APEX-Seq Reveals the Organization of Translation Initiation Complexes and Repressive RNA Granules.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 橋本 夏葉
  • 投稿日 2019/11/13

タンパク質相互作用や細胞内局在を理解するため、細胞内において近接標識がしばしば用いられている。近接標識反応は細胞内の数十 nm 以上に作用し、一過性で動的な構造を標識することによく適している。今回用いる近接標識である APEX 近接ビオチン化反応は、APEX2 と呼ばれるラジカル反応を促進する酵素を用いて、その半径 20 nm 以内をビオチン化する手法である。APEX2 を安定発現させた細胞をビオチンチラミドでプレカルチャーし、過酸化水素を用いたラジカル反応を APEX2 で触媒することでタンパク質をビオチン化標識する。本論文ではこの APEX 近接ビオチン化反応を用いてストレス顆粒構成因子の探索を行う。細胞が熱刺激やヒ素刺激など特定のストレスに晒されると、その応答機構の一つとして細胞質にストレス顆粒(stress granules : SGs)が形成される。SGsは core と shell によって形成されるという報告がある。高密度で安定した SGs “core” は初期形成とそれに続く蓄積に関連し、IDR (Intrinsically Disordered Regions) や LCD (Low-Complexity Domain) は低密度な SGs “shell” を形成しており、これらは LLPS (Liquid-Liquid Phase Separation) に関与している。SGs は主に mRNA、RNA 結合タンパク質、および 40S リボソームにより構成される。SGs が形成されると mRNA が顆粒内へ取り込まれ、一部の翻訳が停止する。また、ストレス下の分解から mRNA を保護する働きもある。SGs は膜を持たずストレス下で一過的に形成されるため、ストレスから回復するとSGs は消失しタンパク質翻訳は再開する。このような一過的なタンパク質翻訳抑制は、異常タンパク質の合成やその蓄積を防ぐことに機能する。SGs は細胞の恒常性維持を担っており、SGs の制御破綻がアルツハイマー病や ALS など神経変性疾患の原因になることが知られている。しかしながら、SGs を形成するタンパク質や RNA などの詳細は未だ明らかになっていない。筆者らは、 APEX 近接ビオチン化反応を利用し、標識されたタンパク質や RNA を分析する APEX-seq を実施することで SGs に取り込まれるタンパク質および転写産物を特定し、この組成が与えられるストレスに応じて変化することを見出した。タンパク質と RNA を標識できるこの技術は、高分子集合体や LLPS における RNA およびタンパク質のダイナミクスを調査するための強力なツールになり得ると考えられる。

返信(0) | 返信する